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編集長のズボラ料理⑯ トウガンとゴボ天の煮物

余裕があれば、トウガンは面取りをし、切れ目を入れると良い

 単身赴任は楽しい。好きなものが食べられるからだ。とは言っても、自分では作らず、食べに出る。高松では、讃岐うどん屋に行きまくった。1年半と短い期間だったが、その数409店。そのかいあって、ラジオからお声がかかった。
 坂出市の彦江製麺所に僕が出かけ、スタジオと結んでの生中継だった。そこは自分で麺(めん)を温め、つゆも自分で入れるセルフの店だった。僕は右手に麺を温める「いかき」を持ち、左手にどんぶりを持って待機した。中継が始まったとたん、ハプニングが起きた。
どんぶりを落としてしまったのだ。そのシーンを、ラジオの音声だけで表現すると、こうなる。 ガチャーン。「ごめんなさい」「すいません」。赤恥をかいた。
うどんまみれだったので、「栄養失調になりそうや」が僕の口癖だった。それを真に受けたのが、「かけあし」というおでん屋のおばちゃんだった。「店が終わるころに来なさい」と言う。行くといつも、家で食べるための、ちょっとしたおかずと、おにぎりが用意してある。「おにぎりは冷凍しておいて、食べたい時にチーンをすればいいのだから」と。
 おにぎりを冷凍する。ところが、僕のすみかにはレンジがない。かくて、冷凍庫はおにぎりだらけであふれ返った。
 夏の暑い日、友人が訪ねてくるという。久々に料理を作る、と決意した。京料理に出てくるようなトウガンの煮物がしゃれている。行きつけの小料理店「活」の大将に調理法を尋ねると、「やめときなさい」。上品なトウガン料理は難しいらしい。結局、友人とは活に飲みに行った。
 その悔しさが尾を引いていた。随分時がたってから、テレビか何かでトウガン料理を紹介していた。それがトウガンとゴボ天の煮物だった。僕にとっては雪辱戦みたいなものである。
 トウガンの皮をむき、適当な大きさに切る。鍋にゴマ油をひき、トウガン、ゴボ天、干しエビを入れていためる。水を注ぎ、和風のだしのもとを入れて煮る。味つけは砂糖、みりん、塩、しょうゆ。トウガンが柔らかくなるまで煮て、最後にカタクリ粉でとろみをつける。本来、トウガンには繊細な味付けをするのが良いのだろうが、これはどちらかと言えばご飯のおかず。そう割り切ってしまえば、上品さなどどうでもいいのだ。(梶川伸)

かけあし

更新日時 2011/07/20


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