編集長のズボラ料理⑮ 水ナスのタコ焼き
大阪人の家庭には、必ずお好み焼き器があるという。僕は生粋の大阪人ではないが、関西での生活が長い。では、タコ焼き器があるかというと、昔はあった。いつの間にかなくなり、長いブランクを経て最近、2代目が活動を始めた。
家庭用タコ焼き器には、盛衰の法則がある。子どもが小さいころには、タコ焼き器は家族の一員と言っていい。子どもの機嫌を取る手っ取り早い方法が、タコ焼きだからだ。僕の家もそうだった。
子どもが大きくなるに連れ、タコ焼きはハンバーガーに変わり、タコ焼き器はやがて、ごみ収集日に家から去ることになる。僕の家もそうだった。
やがて子どもが独立し、家の中での恒例行事がなくなり、静けさが家を包み始めると、ふと思うのである。「たまには夫婦でタコ焼きでもすれば、にぎやかになるのではないか」。そこで、2代目が必要となる。僕の家もそうだった。
スーパーで2代目を買った。何と980円である。さて、2代目のお披露目をする。油ひきがない。スーパーに走るが、売っていない。しかし、あわてない。近くの100円ショップがある。ここには何でもある。やっぱりあった。
続行する。タコ焼き器の仕様書を見ると、竹ぐしを使えと書いてある。それがない。急いで竹ばしを削る。つまり、こんな大騒ぎが会話のきっかけになるのであって、タコ焼き器はそのための道具に過ぎない。2代目がいつまで生き残るかの法則は、まだ判明していない。
7、8前に、天神祭を見に行った時だった。泉州のJAが、水ナスのタコ焼きの屋台を出していた。タコの代わりに泉州名物の水ナスの使うので、水ナスのタコ焼きという表現はおかしいが、この方がわかりやすい。食べてみると、水ナスがジューシーで良い。
オリーブオイルにニンニクの薄切りを入れて熱し、香りをつける。この油をタコ焼き器にひく。パリパリになったニンニクは細かく切って残しておく。小麦粉に卵を入れ、濃いめの和風だしを水の代わりに注いで、よくかき混ぜる。具は原則として水ナスだけだが、残しておいたニンニクチップを入れても良い。あとは、タコ焼きの要領で焼き、しょうゆをかけて食べる。わが家の2代目タコ焼き器のデビュー戦はこれだった。(梶川伸)
更新日時 2011/07/07