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編集長のズボラ料理(832) ポテサラピーマン

 「ジャンクな食べ物が好きねえ」。友人のノンフィクション作家、柳原和子さんが僕によく言っていた。
 彼女は「がん患者学」など評価の高い本を残し、がんで亡くなった。よく一緒に酒を飲んだり、遊んだりしたので、思い出はたくさんあるが、食べ物にちなむ文章を書くと、いつも「ジャンク」の話になってしまう。
 彼女はある時、酒を飲みながら言った。「若いころ、歩き遍路をして印象に残った」。僕は酔った勢いで、つい反応してしまった。「僕も行ってみるわ」。それがきっかけで、何度も遍路に出ることになった。遍路の恩人である。
 ノンフィクションの本など、売れるものではない。それなのに彼女は取材に凝る。外国で生活する日本人108人を訪ねて「在外日本人」を書いた時は、800万円の借金を背負った。
 そんな状態だから、いつもピーピーしていて、レストランで皿洗いなどをしながら、執筆していた。そんな彼女のことを考えて、飲む時は安い店を選んだ。僕は飲めればいいので、どこでもよかったし。
 一方で彼女は京都の食を連載していたこともあって、しゃれたものを食べたがった。ピーピーのくせに。彼女のマンションに仲間が集まって木の芽鍋なるものを作った際には、具材は知られ小料理屋さんから取り寄せた。スーパーで買えばええやないか。
 鍋では彼女を大阪市・鶴橋のホルモン鍋に誘ったことがある。カウンターだけの安くて小さな”こぎたない”店。彼女は「早く出ましょう」とせかす。ピーピーのくせして。仕方ないから早々に店を変え、何と3人でフグを食べた。1人が弁護士だったから良かったが。
 親の血を引いているのか、僕の2人の子どもはジャンクな食べ物でこと足りる。うちに遊びに来ても、スパゲッティーのサラダやポテトサラダ、鶏のから揚げや焼きおにぎりで満足するから、楽なもんだ。
 少し前に息子が来た時も、ポテサラを使った。元同僚の定年後ファーマーから野菜が大量に届き、ピーマンもたくさん残っていたので、これも使った。縦半分に切り、へたを切り取り、種の部分も除いて、ポテサラを入れる容器にした。ジャガイモをゆでて皮をむき、ボウルに入れてつぶす。タマネギを薄切りにする。ハムをカットする。これらもボウルに入れ、塩、コショウをふり、マヨネーズを加えて混ぜればポテサラになる。これをピーマン容器に詰め、上にとろけるチーズを乗せて、オーブンで焼く。
 柳原さんは南禅寺のそばに住んでいた。そばに名高い料亭「瓢亭」がある。彼女は「瓢亭の朝ご飯を食べに行かない?」と誘う。何、朝ご飯でも何千円かするじゃないか。ピーピーのくせに、平気で言うので、困った友人だった。(梶川伸)2025.10.20


 

更新日時 2025/10/20


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