編集長のズボラ料理(824) 黒豆の枝豆ご飯
うちの固定電話は、いつも留守番電話にしている。不用品の買い取り、電気会社の変更、自動音声のアンケートや世論調査など、迷惑な電話が多いので、なるべく電話に出たくなからだ。
必要な内容なら、留守番電話に吹き込むだろうから、その声を聞いてから受話器を取る。そして、「ごめん、ごめん、迷惑電話対策で、留守番電話にしてたので」と謝ってから、会話が始まる。
先日、電話の呼び出し音が鳴ったが、例によってほっておいた。すると吹き込みが始まった。必ず名前が第一声になる。京都府福知山市の遍路仲間の女性だった。会ったり話したりするのは10数年ぶり。
僕は以前、毎日新聞の記者だった。電話の内容は、僕の後輩から取材を受けたというものだった。彼女が所属するハーモニカ同好会が長年の慰問活動に対して、褒章を受けたのだという。
遍路仲間では、役行子(えんのぎょうこ)というあだ名で呼ばれていた。山岳宗教の役行者をもじったものだった。農業に精を出しているせいか、行子さんは僕よりも年上なのに足が強く、遍路仲間が山道を登る時、遅れた仲間の様子を見にいくなど、行者並みに山道を行ったり来たりした。
行子さんは黒豆の枝豆を作っていた。遍路仲間が10人乗りのマイクロバスで出かけ、出荷した後の畑で、残りを収穫させてもらったことが2回ある。僕はビニールの大きなごみ袋に半分近く入れて持ち帰り、世話になっている居酒屋さんに3軒寄り、おすそ分けして帰宅した。酒代をまけてくれるとことを期待したが、その目論みは外れてしまったのが残念だった。
黒豆の枝豆で、豆ご飯を作る。迷うことがある。外側の皮・さやから外すが、中の皮はどうするか。皮があるからこそ黒豆で、皮をむいてしまうと中は緑で、黒豆らしさがなくなってしまう。
結局、炊飯器の米の上にコンブを敷き、皮ごとの黒豆を乗せて、塩をふって炊いた。炊こあがり、炊飯器のふたを開けるとまっ黒けで、いまひとつ美しさがない。茶碗によそうと、黒豆と、皮が外れた緑の豆が混在した。少し美しさは戻ったが、それでいいのだろうか。
行子さんは愉快な人で、遍路の途中もよく笑いをふりまいた。高知市の料理旅館「臨水」で昼食をとっている時は、突然声を上げた。「思い出した!新婚旅行で泊まった」。半世紀も前のことだから、よく思い出したものだ。さすが、役行子。(梶川伸)2025.09.20
更新日時 2025/09/20