編集長のズボラ料理(703) レンコンのメンタイコフライ
レンコンはどこが好きか。そう聞かれて「穴」と答える冗談がある。穴だけなら空気だから、全く価値がないからだ。
価値のある空気について取材したことがある。カラオケを発明した人が、イグノーベル賞をもらい、帰国してしばらくした時だった。取材中に何度も笑ってしまった。イグノーベル賞はまじめにふざけて遊んでいる賞だったからだ。
受賞するとメダルがもらえる。メダルはアルミホイルのパイの皿。しょうもない、と思うだろうが、そうでもない。皿には選考委員4人のサインがある。そのうち3人は、何と本物の方のノーベル賞受賞者。その直筆に価値があると見るかどうか。
副賞は缶詰め。中身は会場のハーバード大学の空気。そんなもの、原価はただだから、その空気感に価値を認めるかどうか。
受賞者にはハーバード大学で講演する特典が与えられる。時間は1分。それを過ぎると、バニーガールが演壇の前を行ったり来たりして、「あなたの話は長すぎる」と大きな声で注意するとか。
授賞式のこと以上におもしろかったことがある。そのカラオケの発明者は特許を取らなかったという。ただし、決して悔しがってはいなくて、平然と話した。「それで結構もうけさせてもらったので」。何とすがすがしい空気感。
レンコンの穴には、何か詰めてみたくなる。僕だけではない。
その昔、銀行員から脱サラして、奈良で小さな居酒屋さんをを開いた夫婦がいた。初めて友人に連れて行ってもらった時、食べたのはレンコンの天ぷらで、穴にはほぐした貝柱が詰めてあった。
その後も何度か行って、その料理を食べた。なぜか。メニューの1番に書いてあるからだった。「たまには変えたら」と大将に行ったことがある。すると平然として言った。「あんまり、得意な料理はない」
人の好みはそれぞぞれだが、レンコンの茎が好きだという友人には驚いた。高松市に住んでいて、久し振りに会った時、ホテルクレメント高松の和食の店「瀬戸」に誘われ、ランチを食べながら、日本酒を飲んだ。友人がなぜ、この店を選んだのか。
ランチには漬け物がついていた。3種類あり、その中にレンコンの茎があった。ピンク色だったので、甘めの梅酢に漬けているのだろう。わずか2本の、小さなサクサク感のために酒を飲むとは。穴よりは茎の方がましだろうが。
レンコンは輪切りにする、穴にメンタイコをいっぱい詰め、小麦粉をまぶす。小麦粉を溶いてレンコンをくぐらせ、パン粉をつけて、油で揚げる。
下手をすると、揚げる時にメンタイコが抜け落ちる。そうなると、穴に空気だけ詰めることになるので、注意が必要。(梶川伸)2023.12.13
更新日時 2023/12/13