編集長のズボラ料理(532) リンゴ卵焼き
果物の中で1番好きなものは? 以前はリンゴだった。それには物語がついている。
学生の時だから、半世紀以上前のことになる。東北を1人で旅行して、青森駅でリンゴジュースを飲んだ。これが至極うまかった。と思う。あいまいな書き方をしたのは、どんな味だっか、全く覚えていなかいからだ。それでも、感動だけは覚えている。
その日はバスの乗って、ひなびた温泉を訪ねた。温泉の名前は覚えていないないのに、道中と温泉の印象ははっきり覚えている。
まず、バスの中。地元の人同士が話をしていたが、何を言っているのか全くわからなかった。まるで外国にいるようで、話しかけることもちゅうちょした。
さて、温泉。たった1人で。湯船につかっていた。やがて、地元のおばちゃんグループがドドッと入ってきた。混浴ではない。男ぶろに入っているのに、なぜ?
ここでも、おばちゃん同士の会話はチンプンカンプン。それでも想像するに、女ぶろより男ぶろの方が広いから入ってきたとの経緯のようだった。その圧力に負けて、僕はすぐさまふろを出た。
リンゴジュースには、こんな思い出がついている。そのため、リンゴが好きになっていった。ついでに「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 」と、島崎藤村の「初恋」を口にして、かっこをつけることも忘れなかった。
果物の中で、今1番好きなものは? 1番はスイカ、2番は柿で、やっと3番にリンゴがランクされるかどうか。時の流れは残酷なものだ。リンゴがランクダウンしたのは、その固さにある。年をとって歯が弱くなり、固いリンゴを敬遠するようになった。青いリンゴなど、もってのはかである。もちろん、「まだあげ初めし」も。
もう1つ、リンゴは酸っぱさもあってこそ、リンゴである。ところが、最近は果物が何でも甘くなってきた。それに僕の口も慣らされて、リンゴのランクを下げる要因になっている。
ところが今回のズボラ料理は甘い。リンゴは酸っぱくないことを再確認した。
リンゴは皮をむいて、すり下ろす。卵を溶いて、おろしリンゴも加えて、よくかき混ぜる。味つけは、塩・コショウを強めふる。小型のフライパンで卵焼きにする。
これは甘い。だから塩・コショウを強めにするのだが、それでも甘い。しかも、卵焼きだから柔らかい。僕にとって、リンゴ復活のきっかけになるかもしれない。(梶川伸)2021.08.09
更新日時 2021/08/09