このエントリーをはてなブックマークに追加

編集長のズボラ料理(491) オカヒジキのポン酢

緑の色を生かす

 海のクラゲをもじって、山にはキクラゲがある。おいしいかどうかは別にして、コリコリとした食感が持ち味と言っていい。
 たいていは乾燥したものを使う。干からびたようで見かけは悪いが、ゆでて細切りにして食べると、ゴムのようになるから、不思議な食べ物だ。
 スーパーでは時に、生キクラゲも見かける。食べ方がよくわからないので、結局はゆでて食べた。生と干したものとの違いは何だったのか。
 海にはヒジキが生えている。愛媛県今治市・大島に吉海バラ園があり、そこのレストランのヒジキ丼を何度か食べた。ヒジキを煮てご飯に乗せているだけだが、これが癖になる。ヒジキ自体がおいしいのだと推測し、レストランに併設された売店で買うことにした。残念ながら時期が遅かったようで、予約があったものしか売っていないというつれない返事だった。
 仕方ないから、同じ愛媛県の宇和島市に住む元同僚に、そのことを吹き込んでおいた。まんまと作戦にはまり、乾燥ヒジキを送ってきた。石積み段畑の岬、宇和島市遊子(ゆす)のヒジキだったが、宇和島から今治までは遠いので表立っては文句は言わず、おいしく食べた。
 陸にもヒジキはある。オカヒジキで、ヒユ科の植物らしい。これは、あまり食べる機会がない。
 遍路が結願し、高野山にお礼参りに行った後、奈良県五條市の山あいの農家レストラン「農悠舎王隠堂」で食べたことがある。
 到着すると、すでに前菜だけ並んでいた。まず目についたのがオカヒジキだった。ほかに、ピリ辛ゴボウ、がんもどきの梅酢おろし、ヒモトウガラシ、ヤマトマナ、キュウリの酢の物。炊き合わせとして、ズッキーニ、カボチャ。揚げナス、ニンジン、モロッコ豆。
 それから次々に運ばれてくる。ソラマメの冷たいスープ、野菜コロッケ。天ぷらは、ズッキーニ、サンド豆、大和当帰(ヤマトトウキ)など。感激した。汗だくのかいがあった。
 実はそこに着くまで、猛暑の中を汗だくになって山道を登った。店にはクーラーがない。自然の風が心地良いのだが、汗がひくまでに10分はかかった。オカヒジキを食べるのは、結構大変なのだ。
 オカヒジキを売っていたので買ってみた。少し塩を入れてゆで、食べやすい長さに切る。ショウガの千切り、チリメンを加え、ポン酢をかける。簡単すぎるが、オカヒジキを見つけるのは簡単ではないから、その努力で許してもらおう。
 この料理では、王隠堂ほどの感激はないに違いない。もし感激がほしかったら、猛暑日を選び、15分ほど走った後で食べるといい。(梶川伸)21.03.19

更新日時 2021/03/19


関連リンク