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編集長のズボラ料理(381) マコモダケの酢みそ

ゆでる際、固さの割りには火の通りは早い

 三重県・御在所岳に行き、ふもとのホテル「鹿の湯」で泊ったことがある。名前が気に入ったからだった。
 鹿が経営しているわけでも、客が鹿だというわけでもなかったが、楽しい宿だった。真菰(マコモ)が宿のシンボルになっていたからだ。
 実はその宿で、初めてマコモなるものを知った。それが真菰筍(マコモダケ)として食べられることも。
 「筍」となっているからといって、タケノコの一種ではない。「タケ」とついているからといって、キノコではない。サルマタケのような漫画上の植物でもない。
 その実態は、稲科の植物だという。茎が肥大化したものがマコモダケで、これを食べる。
 では、なぜマコモのホテルなのかというと、マコモの産地にあるからだった。行政上も菰野町である。
ホテルの壁には。マコモが塗り込めてあった。花瓶にはマコモが生けてあった。マコモダケを漬けけ込んだリキュールを飲んだ。夕食にはマコモダケを練り込んだ麺(めん)も出た。マコモだらけの一夜。それがおもしろかったし、印象に残った。
 ところが、味については覚えていない。マコモダケは淡白な味で、それそのものの味がはっきりしないからだろう。
 マコモのことは、それからすっかり忘れていた。数年たって、菰野高校野球部が甲子園に出た。それでマコモダケを思い出したが、味の記憶は全くなくなっていた。菰野高校が初戦で負け、それ以来、マコモは甲子園からも、頭のなかからも消え去ってしまった。
 先日、近鉄百貨店奈良店の食料品売り場で、奈良県の野菜類を並べているコーナーをのぞいてみた。奈良産・岩阪きのこ園のマコモダケを売ってるではないか。これは買って、味を思い出さねば。
 どう料理をしていいか分からない。第一、皮(表面部分)をむくのかどうか、先の方(葉のようになっている部分)を使うのかどうか、それすら分からない。そういう時にはエイヤー、である。
 先は適当に切り、皮はむきにくかったので、そのままにし、縦に4~6等分に切り、さらに適当な長さに切った。
 さて、どうするか。そういう時はエイヤーである。1番簡単な軽い塩ゆでに決まっている。味もエイヤーで、酢みそをつけて食べることにした。僕の記憶を取り戻すため、かわいそうなマコモダケだった。
 タケノコに近いような食感だった。味は薄いので、きっとすぐに忘れてしまうかもしれない。しかし、味が薄いのはいろいろな料理に合うということだろう。御在所にに行くか、菰野高校がまた甲子園に出たら、思い出して次は天ぷらか炒め物で食べてみよう。(梶川伸)2019.10.31

更新日時 2019/10/31


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