池田・豊中発ガンバルジャン⑨
小林商店――
皇太子さま、秋篠宮さまがご成婚の際に贈った結納品、俳優のジョニー・デップへの贈り物などを入れた桐箱を作った会社が、池田市荘園にある小林商店だ。もともと大阪市港区で金庫の中箱を作っていたが、戦争で工場が焼け、池田市に疎開してきた後に桐箱を作るようになった。現在は3代目の小林総一郎さん(62)と、2008年に「なにわの名工」に選ばれた斉藤勝美さん(72)の2人の職人が、熟達した技術で桐箱を作っている。
桐には虫を寄せ付けない成分が含まれており、さらに軽量で湿度にも強く、発火点が高いため燃えにくいという特性がある。そのため昔から大事な物をしまうのには桐箱が使われてきた。「桐箱は単なる入れ物ではない。匠の技が込められた、一つの美術品でもある」と、小林さんは力を込める。桐の元々の美しさを大切にするために白木で細工し、ふたを閉じると、どこから開けるのかわからないほどに継ぎ目が目立たない。その精緻な美しさは海外でも評価が高く、メールを通じて注文が来ている。
工程でもっとも気を使うのは桐の乾燥だ。十分に乾いていないと、後で桐が縮まり割れてしまう。「冬場はいいけど、梅雨時は本当に大変だよ」
小林商店の桐箱は、すべてオーダーメイド。何を入れるのかを客から聞き、要望に添って作っていく。ひな人形、卒業証書、へその緒、遺跡の発掘品……。注文主にとって大切なものが、桐箱にしまわれる。客からの礼状に「この先100年、200年と伝えていくことができる」という言葉もあった。世代を超え、未来へと受け継がれるものを桐箱が守っていく。
斉藤さんは「全部を手作りする職人は、私が一番若いくらい。常に『もう少しああすれば良かった。今度こそは』という積み重ね。極めることは永久にできない」と笑う。そんな求道者的な職人の魂が、この桐箱には込められている。(礒野健一)
地域密着新聞「マチゴト豊中・池田」第17号(2011年3月17日)
更新日時 2011/03/17