編集長のズボラ料理(312) はんぺんカツ
はんぺんは、中途はんぺんな食べ物だと思う。カマボコかと思えば、そんなに固くない。玉子豆腐ほど柔らかくもない。そのあいまいさが、逆に使いやすさにもつながっている。これを、はんぺんファジーの原理という。言っているのは、僕だけだが。
ズボラ料理でも、何度か取り上げた。連載開始早々の4回目で早くも、はんぺん春巻きとして登場した。はんぺんは適当に切って春巻きの皮に巻く。熱で伸び縮みするので、細かく計っても、大して意味はない。はんぺんファジー理論を体現した料理といえる。
120回は、はんぺんエビしんじょうだった。料亭のしんじょうには底知れぬ憧れがある。でも、作れない。そのコンプレックスを打ち破るのが、はんぺんである。何も考えずにつぶして団子にすれば、しんじょうに近いものになるからだ。食べた人が首をかしげて、「これ、しんじょう?」とつぶやいたとしても、「まあ、はんぺんだから」と言って逃げることができる。。
132回は、はんぺんだて巻きだった。これはズボラのおせち料理には欠かせない。フードプロセッッサーでつぶしたはんぺんと卵を混ぜて焼けば、自然と正月がやってくる。これをファジー迎春という。言っているのは、僕だけだが。
今回は揚げてしまう。これもファジーな料理だと思う。東京から来た友人が、大阪市・新世界の串カツを食べたいという。大阪人の思う壺で、「ハイハイ」と案内する。相手は串カツど素人だから、最初はマナーとして「串カツ」を頼む。続いて、エビやらイカやらシイタケを注文する。このあたりでド素人東京人は「?」となる。豚か牛だけが串カツだという概念n凝り固まっていて、ファイジーさに欠ける。エビやシイタケも串カツ一家の一員だと知らないのだ。
次にほくそ笑みながら、アスパラを頼む。運ばれてくると、串にささっていない。そこで素人の固定観念がガラガラと崩れていく音を聞く。
最後は紅ショウガでダメ押す。ど素人は、紅ショウガを揚げるなど、想像もつかないのだ。串カツは幅と奥が深く、その分だけファジーと言える。
政治でも経済でも東京には勝てないが、串カツなら勝てる。だから東京人が来たら、新世界に連れて行くに限る。
はんぺんの1辺から中に向かって包丁を入れ、袋を作る。その中に大葉、チーズ、メンタイコを入れる。溶き卵にくぐらせ、パン粉をつけて揚げる。中に入れるのは好みでいい。ファジーで中途はんぺんな食べ物なので。(梶川伸)2018.09.07
更新日時 2018/09/07