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編集長のズボラ料理(309) ササミとネギと長イモの南蛮漬け

少し焦げ目がつくくらいに焼くのが好み

 食べ物の場合、「南蛮」は「なんばん」なのか、「なんば」なのか。1970年に毎日新聞に入社して以来、ずっっと悩んできた。それなのに、この駄文を書くためにインターネットで調べたら、即座にわかってしまった。
 もっと早く調べればよかった。この半世紀を無駄に過ごしたと、後悔している。
 小学校の1年生の途中から6年生の1学期まで、僕は東京で過ごした。その時に、この悩みはなかった。その後、大阪と名古屋で過ごして、大学を卒業した。この期間は、特別に問題意識を持っていなかったから、悩むことはなかった。
 就職して初任地は和歌山だった。ここで、南蛮という壁のぶつかってしまった。和歌山名物に、かまぼこ「南蛮焼き」があった。田辺市の「たな梅」という会社の商品で、ちょっと変わっている。普通のかまぼこは細長い形をしているのに、南蛮焼きは正方形なので、なかなかインパクトがある。
 その呼び方が「なんばやき」に聞こえたのだ。その瞬間、それまでの僕の世界観は音をたてて崩れてしまった。歴史で習った「南蛮貿易」は「なんばん」ではなかったか。
 和歌山には「なんば」駅から南海電車でも行けるので、「なんば駅」の影響を受けているのでないかないか。頭は混乱するばかりだった。
 僕は小さいころ耳に病気のために、学校で1番前の机に座っていた時期がある。そうなるち、聞き間違いということもありうる。
 店の人に聞けばいいのだが、それも面倒くさい。問題は解決しないまま、時は過ぎ去っていった。
 困ることがあった。実家への土産に南蛮焼きを買う時だった。店の人に商品名を告げなけらばならない。そこで考えた。「なんば」とはっきり言って、「ん」だけは小さく言う。かくして、「なんば」と「なんばん」の中間音を狙うテクニックを身につけてしまった。
 実はかまぼこだけの問題ではない。そば屋さん入り、「カモ南蛮」を頼む時にはどうすればいいのだ。大阪なら間違っても笑いですむが、京都のソバ屋さんで間違えたら、笑いではなく、冷笑を浴びるに違いない。だから、ここでも得意技の中間音を使ってきた。
 で、このたびインターネットで調べると、関東は「なんばん」と言い、関西は「なんば」と言うらしい。何や、悩むことも中間音の技を使うことはなかったのだ。
 鶏のササミ、白ネギ、長イモをオーブンで焼き、適当に切る。それを、しょうゆ、みりん、酢、ゴマ油を混ぜたものにしばらく漬けておく。皿に盛って、大葉の千切りをかける。
 さて、「なんば漬け」にするか、「なんばん漬け」にするか。考えた末、姑息に漢字表記の「南蛮漬け」にした。まだ引きずっているのである。(梶川伸)2018.08.24

更新日時 2018/08/24


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