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編集長のズボラ料理(293) どて焼き

白みそも含めて、みそは好みで。1時間以上煮ると、すじ肉が柔らかくなる

 どて焼きといえば、大阪では居酒屋さんの定番メニューだ。すじ肉とコンニャクをみそで煮込んだもので、経験から言うと、大阪の酒飲みの8割は食べたことがあるに違いない。だから、あえて取り上げる必要はないかもしれない。でも取り上げないと、どこかもの足りない。「2度づけ禁止」の店に行って、串カツだけ食べていても、どこかスッキリしないのと同じだ。
 長年お世話になっている居酒屋さんが、大阪市・北新地のはずれにある。その店にも、どて焼きはあって、よく頼む。結構固いので、歯を鍛えるにはいい。
 どて焼きは「トロトロ」が基本だと思っているので、「固いね」と、店のおばちゃんに文句をつける。おばちゃんは好き勝手なことを言う人で、いつも「すじ肉は松阪牛。ゆで卵は伊勢神宮の卵」とかわす。カウンターの上には大皿に盛った20種類近い総菜が並んでいて、自慢のどて焼きとゆで卵にチラリと視線を向けながら言う。
 客はみんな「松阪牛ねえ? 伊勢神宮で卵を売っていたかなあ?」と疑問を持つが、決して口には出さない。何せおばちゃんは2017年11月で94歳になったのだ。いや、95歳だったかもしれない。そこまでくれば、何でもありだと、客は思っている。
 おばちゃんは苦労人で仕事に追われ、「新世界に行ったことがない」と話したことがある。そこで客が相談してすぐに、おばちゃんが主役の新世界ツアーが実現した。スマートボールをした後、串カツ屋さんに行った。どて焼きも注文したが、おばちゃんは決して口にしなかった。見かけからして、自分が作ったものと違っていたからに違いない。実際に食べれば、柔らかさはおばちゃんの店の3分の1だと知り、やけくそで串カツを3度漬けしてしまうかもしれなかった。ただ、その後も、「すじ肉は松阪牛」と言い続けている。ひょっとすると、3桁の年齢になっても。
 どて焼きは大阪ではだれでも知っている。しかし、大阪から離れるとそうではない。高松で勤務した際、異業種交流のグループに属していた。ある時、メンバーがそれぞれ自分で作った食べ物を持ち寄ることになった。僕が作ったのはどて焼きで、これは好評だった。高松にはないからだ。
 似たものはある。すじ肉を煮込んでいるが、味付けはしょうゆ。コンニャクも入っていなかった。居酒屋さんでは「煮込み」というメニューだった。しかし、もの足りない。大阪人の手前みそではあるが、みそ味の方が圧倒的に勝っている。
 精肉店ですじ肉を買ってくる。1つが大きければ、食べやすい大きさに切っておく。板コンニャクの表裏に包丁で斜めに筋を入れて味がしみやすくし、小さめの拍子切りにする。
 鍋で湯を沸かし、すじ肉を3分ほどゆでて、あくを出し、いったん鍋からあげておく。鍋でだしを取り、ニンニク1かけ、ショウガ、砂糖を入れ、すじ肉とコンニャクをコトコトと煮る。途中であくを取り、すじ肉が少し柔らかくなってきたら、少ししょうゆをたらし、みそも溶かす。僕は合わせみそに赤みそも加える。白ネギの斜め切りも加え、さらに弱火で煮込んで行く。水分が少なくなり、ドロッとしてきたら食べごろ。
 異業種交流でいつか、おばちゃんの店に持っていこうか。3桁の誕生日でもいい。また食べないかもしれないが。(梶川伸)2018.02.07

更新日時 2018/02/07


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