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編集長のズボラ料理(282) アボカドとサーモンのポン酢マヨネーズ和え

アボカドとワサビは合う

 アボカドなのかアボガドなのか、長い間確かめなかった。だから「カ」と「ガ」の中間ぐらいの発音でごまかしながら言っていた。
 別に確かめる気もなく、調べるつもりもなかった。以前はそんなに食べることがなかったから、話題になることも少ないし、口に出す場合には、得意のファジー理論に基づくごまかしテクニックを使えば事すんだ。
 僕がアボカドをきちんと食べたのは、20年ほど前のことになる。「きちんと」としたのは、その前も口にしているだろうけれども、記憶がないからだ。
 新大阪駅の近くの変わったすし屋に行った。店の主人はメリカですし店を開いていた人だった。アメリカの博物館でマクロビオティックの素晴らしさを知り、それを料理に取り入れたと話していた。
 マクロビオティックは桜沢如一の理論による食事法・思想で、「アメリカでは評価が高く、日本食ブームの要因の1つになっている」と説明してくれた。その理論を身につけて帰国した。マクロビオティックの逆輸入のような流れだった。
 店で1番印象に残っているのは、キトン・キトサンで育てたニンジンを絞った生ジュースで、ほかには何も入れていないのにとても甘かったのを覚えている。それと値段の高さと。コップ1杯400円だったと思う。
 すしではアボカドの巻きずしだった。今ではカリフォルニアロールとしてなじみになったが、その時点ではアボカド自体が初めてだったので、当然ながらカリフォルニアロールも初めてだった。
 やがてその店は閉じてしまい、数年の間はアドカボから遠ざかることになった。しかし、アボカドはどんどん市民権を得て食べる機会が増え、正式名称を覚えざるを得なくなった。ただ、長年の「カ」か「ガ」かをはっきりさせないファジー理論で生きてきたため、僕の中では正式名が定着しない。だから「アボ」と音に出した後、一拍おいて考え、さも何もなかったように「カ」と音にする。ごまかしテクニックは続いている。
 でも、「カ」か「ガ」か問題は、僕だけの悩みではない。間違えている人もいるし、考えている人もいるし場合によっては僕に聞く人までいる。そんな時は、20年悩んだ自負があるので、親切に、そして偉そうに「カ」だと教えてあげる。一拍おきながら。そうしないと間違えて、「カ」か「ガ」か問題のエキスパートの面目が丸つぶれになる。
 アボカドは皮をむき、種をはずして、四角い適当な大きさに切る。刺し身用のサーモンの短冊を買ってきて、それも同じ程度の四角い大きさに切る。マヨネーズ、ポン酢、ワサビを混ぜ、アボカド、サーモンと和える。
 アボカドを初めて味わってから20年。行き着いたのがこの程度の料理だから、あまり進歩がない。「ズボラ」のコンセプトに合っていることだけのことである。(梶川伸)2017.10.29
 

更新日時 2017/10/29


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