編集長のズボラ料理(276) 手羽先のから揚げのカレー粉まぶし
食べ物にとって、パフォーマンスは大事だ。味の良し悪しを大きく超えることがある。
新聞の食べ物の店の紹介欄には、自薦他薦の店情報が届く。大阪市平野区の店を推薦するはがきには、「鍋物がおいしい」と書いてあった。
取材に行くと、母娘が迎えてくれた。鍋は変わっていた。具が串に刺してある。それがスポンジに突き立ててある。剣山に刺した生け花のようだが、ちょっと異様なパフォーマンスに驚いた。
お母さんが話す理由がふるっていた。特別にいい食材を使っているわけでもないし、味に工夫や自信があるわけでもない。「せめて見た目で特徴を出そうと思って」
あまりにも正直で、かえって面食らってしまった。しかし、記事にするのにためらいが出る。
娘さんも、お母さんに輪をかけて正直人間だった。「間もなく私は結婚する。お母さんが頼りないので、新聞で紹介してもらったら、お客さんが増えるかもしれないので」
手紙の主は、娘さんだった。自薦と他薦の中間形態。母親思いのパフォーマンスにじんと来て、記事にした。2人とのやり取りも入れながら。
友人と大阪市・上本町の居酒屋さんに入った。冬だったので、ひれ酒を頼んだ。ひれ酒は焼いたフグのひれをカップに入れ、熱燗(あつかん)を注いで、ふたをして味を出す。飲むときにはふたを取って火のついたマッチを近づけ、アルコール飛ばす。このパフォーマンスは、ひれ酒の売りでもある。
この店のパフォーマンスは難易度Dだった。カップに焼いたひれが入っている。熱燗はやかんのようなものに入れ、高い所から少しずつ注ぐ。その時に火のついたライターを近づける。すると、カップからやかんまでの酒の滝が火柱に変わる。誰もが「オーッ」と声をあげる。
すべて店の人がやる。ただし、頼んだ時のパフォーマーは新人だったようで、先輩が後で見守っていた。
通常のひれ酒の作り方とは逆のようなところがあり、味が良くなるのかは疑問だが、味よりパフォーマンスで、3杯も飲んでしまった。
遊び仲間で奈良市・学園前の居酒屋に行った。「フリフリ手羽先のから揚げ」というメニューに目が止まった。「フリフリ」とは何だろう。
テーブルにから揚げが運ばれてきた。別に変わりがないと思っていると、カレー粉が入った小皿も置かれ、さらに紙袋を手渡された。そこで説明が始まった。「から揚げを袋に入れ、カレー粉をふりかけて、フリフリしてください」
何のことはない。カレー粉をから揚げにまぶすのに、客の手を使っているだけのことである。これを参加型パフォーマンスと名づけることにした。
さっそく、そのアイデアを頂戴した。しょうゆ、みりん、酒、すりおろしたショウガとニンニク、生卵を混ぜ、手羽先を漬け込む。水分を切って、小麦粉にカタクリ粉を加えたものをまぶし、油で揚げる。ビニール袋にカレー粉入れ、から揚げをまぶす。
家族で食べる時には、食卓でパフォーマンスをしなくてもいい。いや、フリフリしてもらえば、かえっておこられる。(梶川伸)2017.09.05
更新日時 2017/09/05