編集長のズボラ料理(273) ホッケの干物の冷や汁
冷や汁を作ってみよう、ということになった。実に無謀な計画である。作ったことはおろか、食べたこともない。
キュウリを4人からいただき、冷蔵庫の野菜入れ場はキュウリ庫に変わっていた。特に近所のおばちゃんからは、3回目の予告を受けていて、早く消費しないとキュウリ庫からはみ出してしまう。
いろいろと調理して汗たが、手持ちレパートリーは尽き果てた。切羽詰まった状態で、知恵を絞り出しているうち、何とか出たのが冷や汁だった。いや、冷や汁だった。「確か、キュウリを使っているはずだ」
さて、どう作るか。パソコンで調べれば簡単なのだろうが、昔人間の僕には面倒くさい。そこで思い出したのは、遍路の最中に愛媛県で食べた「伊予さつま」だった。店の人は「宮崎の冷や汁みたいなもの」と話していた。ただし、キュウリが入っていたかどうかは覚えていない。
伊予さつまには思い出がある。僕の感覚は「結構いける」で、お土産にも買って帰った。そこで、遍路旅の昼食に組み込んだ。松山市の「ゆうゆう亭」という店で、「さつま汁定食」を用意した。ちょっとした天ぷらや小鉢もついてはいるが、メーンはご飯にかける伊予さつま。ところが食べたことのない人がほとんどのうえ、灰茶色で決して美しい色ではなく、手が出ない人が半分近くいた。
気の知れた仲間での遍路で、計画は僕が立てた。だから、「あれは、食べられんわ」と平気で言う仲でもあり、「苦労して見つけた店なのに」と反論する仲でもあった。しかし、先達を務める遍路旅の場合は、参加者はお客さんなのでリスクが大きすぎ、その店は選んでいない。
みそにゴマを入れ、すりこぎですりながら混ぜる。ホッケの干物を焼き、身をほぐしてみそに加え、すりこぎで軽くすり、身の形は残す。それをオーブンで少し焼き、香ばしさを出す。強いだしをとり、みりんと薄口しょうゆで味をつける。みそに注いで、少しシャブシャブにする。キュウリの薄切り、ミョウガの千切を入れて混ぜ、最後に炒りゴマをふる。これをご飯にかけて食べる。
ホッケを使ったのは、大した理由ではない。スーパーで安く売っていただけのことで、ほかの魚を焼いてもいい。
さて、これが冷や汁の範疇(はんちゅう)に入っているのかどうか。食べたことがないので、冷や汁ものだ。(梶川伸)2017.08.15
更新日時 2017/08/15