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編集長のズボラ料理(271) 干しシイタケの煮物の天ぷら

煮る際の味付けは好みで

 遍路旅の核心は、昼ご飯にある。先達(案内人)をやっていて、そう確信している。もちろん、しっかり遍路のお参りはしたうえでの話ではある。そのお参りも、しばしば道に迷ってしまうので、頼りない先達ではあるが。
 原則として月1回の1泊2日の遍路なので、結願するまでに1年以上かかる。夜と朝は宿に食べ物を任せる以外にはないが、昼は僕が店を決めるから、遍路旅に満足してもらえるかどうかの責任がのしかかる。
 僕のコンセプトは「なるべく地元のものを食べる」。実はこれは、結構冒険となる。参加者それぞれに好き嫌いがあるからだ。だから通常のツアーは、いろいろなものが入っている幕の内のようなものを選びがちになる。1つのおかずが嫌いで食べられなくても、いくつかある中には好きなものもあるからにほかならない。
 僕は地元のもの一発勝負に出てみる。アラカルトではなく、一品だけのものを選んでみる。例えば徳島ラーメンとライス。小さなラーメン屋さんなので、ラーメン以外にメニューがない。そのために「ラーメンが嫌いな人がいませんように」と、朝1番のお参りからお願いし続ける。
 昼ご飯はスリルだ。高知県須崎市の鍋焼きラーメン、愛媛県西条市の西条ナポリタン、香川県丸亀市の骨付き鳥……。参加者にとって、当たりと外れの落差が大きすぎるる。
 徳島県阿南市のホテルで、「しいたけ丼」を食べたことがある。阿南には「しいたけ侍」というブランドのシイタケがあり、それを使っているから、コンセプトにピッタリだった。
 この侍は曲者だった。シイタケは結構嫌いな人がいる。また、「しいため丼」の語感から和風のイメージを想像している人も多かった。ところが店はホテルのレストラン。シイタケの笠の裏にミンチを塗りつけて焼いたものをご飯の上に乗せてソースをかけた洋風丼だった。イメージギャップから立ち直れない人がいた。その上、大きなシイタケは5つ。年配の女性には食べきれない。そんなこんなで、気に入った人が半面、「あれはいかんわ」という人が半分だった。
 シイタケでは別の思い出がある。徳島県を流れる吉野川の名所、大歩危にある店「祖谷(いやそばもみじ亭」で昼食をとった時の事だ。
 祖谷そばはブツブツ切れる田舎そばで、それ以外に固い豆腐やコンニャクなど、地元の食材を使った料理が少しずつついている。店の女性が1つずつ親切に説明してくれた。
 天ぷらにはシイタケもあった。女性は「にしもとさんのシイタケを使っています」。ところが僕たちには、にしもとさんがどんな顔をした人かも知らない。説明が詳しすぎるが、田舎の人の誠実がたまらなくいい。
 にしもとさんのシイタケは生ではなく、干しシイタケだった。それを煮てから揚げてある。ありそうで、あまりない。さっそくそのアイデアを盗んで、ズボラ料理とした。 干しシイタケを水でもどし、その水にだしの素を加え、砂糖としょうゆで煮る。煮上がったら水分をふき、小麦粉をまぶし、衣をつけて揚げ、天ぷらにする。にしもとさん、ありがとう。顔も知らないけど。(梶川伸)

更新日時 2017/08/07


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