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編集長のズボラ料理(257) 緑のサラダ

ドレッシングにワサビを使ってもいい

 毎日新聞に入社したころ、入り浸っていた取材先があった。そこには気がよくて、よく笑い、おしゃべりな女性がいた。暇の時はそこに行って、おしゃべりをして時間を過ごした。
 彼女の姓は覚えていないが、名前は「みどり」といった。僕よりの年上だったが、みんなが「みどりちゃん」と呼んでいたので、僕もそうしていた。
 その場所は、いつもネタがある取材先ではない。いや、そこのネタを記事にしたことは1回きりだったような気がする。しかも、みどりちゃんは事務の人で、話しても記事になることは全くなかった。
 ただ1回、「ネタ」をもらったことがある。みどりちゃんの結婚祝いが、会費制で開かれた時だった。新郎が新婦のみどりちゃんに絵本「白いうさぎと黒いうさぎ」(ガース・ウイリアムス)をプレゼントした。ごく短い本だったので、新郎がその場で読んだ。
 たわいのないストーリーだった。黒いうさぎが彼女の白いうさぎと、一緒に走っている。ふと、走るのをやめ、ちょっと考えてから、また一緒に走り出す。また止まって考える。「いつも一緒にいられたらいいな」と。そこで結婚する。それだけのことだった。
 それから何年かたった。僕も結婚することになった。その時、この絵本を相手に渡して、結婚の意思表示にした。みどりちゃんからもらった唯一のネタが役に立った。
こう書いてきたのも、緑のサラダに結びつけるためだった。苦しいこじつけだった。
 野菜はやっぱり緑がいい。第一、爽やかな感じがする。トマトのような赤もいいが、やはり緑にはかなわない。
 僕は季節の中で、5月の新緑の季節が好きだ。いい年になると、太陽の光を通した若葉のみずみずしさに嫉妬さえ感じる。これは、緑の野菜に通じる感覚である。子どものころは、野菜嫌いだったが、年をとるに従って好きになり、今では新鮮は野菜に嫉妬さえ感じる。
 野菜サラダは緑が中心になるが、今回はそれを徹底して、緑に統一した。そこで名前も、緑のサラダとした。我ながら、安易な方法で、爽やかでも何でもない。
 強いだしをとり、サヤインゲン、アスパラ、小さく切り分けたブロッコリーを順番にゆでる。いたような気がする。ソラマメもだしでゆでて、皮をむく。それらを皿に盛り、上にミントの葉をあしらう。ドレッシングはオリーブオイル、だし少し、白だし、塩、コショウを混ぜる。
 緑のサラダは新緑の季節に似合う。などと言いながら食べるが、これもこじつけっぽくて、みどりちゃんが聞いたら怒られそうだ。(梶川伸)2017.04.24

更新日時 2017/04/24


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