編集長のズボラ料理(218) 鯛めし
これまでに食べたもので、何が印象に残っているか。1番は淡路島・沼島のハモすき。沼島へは、淡路島からさらに船に乗る。取材で島に渡ったが、台風の直前だったため、僕以外の客はみんなキャンセルした。宿に泊まったのは1人だけ。そんなこともあって、宿の主人に骨切りの包丁さばきを見せてもらい、鍋の説明もじっくりとしてもらった。
2番は高知県・四万十川の青ノリ。青ノリを食べた場所は、大阪市・天王寺の店だった。冬の1番ノリを、キンキンに冷やしただしに落しただけだったが、ほんのりとした塩味が絶妙だった。店の主人の「1番ノリ」という説明に、なぜか納得した。
ハモすきといい、四万十川の青ノリといい、本来の味以外の状況や言葉が、プラスαの味つけとなって、思い出として残っている。「味は?」と聞かれると、あまり覚えていないのが、正直なところだ。
3番目からは、たくさんのものが同列で並び、なかなか順位がつかない。食べたのが1回か2回だから、味はともかく満足感だけは残っていたからだろう。
そんな中に、京都市・八坂神社の入り口にある柚子屋(ゆずや)旅館の「ゆず雑炊」がある。雑炊の鍋の中心に、ユズが丸まま入っているのが印象的な一品だ。鯛の骨をあぶり焼きし、それをだしに使っていて、香ばしさを演出する。鯛が見えないところで活躍している。
鯛は「魚の王様」とも言われるが、わかるような気がする。骨まで威力を発揮するからだ。
高知の友人から取材を頼まれたことがある。高知での知り合いの男性が展覧会を開くので記事にしてほしい、というのだ。友人の顔を立て、会場をのぞいて簡単な原稿を書いた。
友人の手前もあって、「一杯行きますか」と声をかけた。軽いあいさつのようなもので、初対面の人がまさかその言葉に載ってくるとは思いもしなかった。ところが男性は「待ってました」という顔で、その日の夜に飲みに行くことになった。即決である。高知人の酒好きは知ってはいたが、これほどとは。
安い魚の店に行った。刺し身の後、彼が注文したのは鯛のあら煮だった。きれに身を食べつくすと、彼は店の女将に熱湯を頼んだ。それを皿に残った鯛の骨にかけ、しばらく置いて飲んだ。鯛の骨のスープだった。それ以来、僕も同じようなことをする。それを教えてくれたので、厚かましさは許すことにした。
鯛の切り身にごく少量の塩をふって焼く。おいしいから食べたくなるが、そこをグッと我慢して、身をほぐす。残った骨をあぶり焼きする。この骨でだしを取る。米に骨のだしと、コンブ、しょうゆとみりんを加ええる。揚げとシメジを切って具とし、だししょうゆとみりんにいばらく漬けて味をつけ、米と一緒にして炊き込みご飯を作る。炊き上ると、鯛の身も一緒にしてかき混ぜ、しばらく蒸す。食べながら、鯛は骨のある魚であると、再確認する。(梶川伸)
更新日時 2016/09/19