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編集長のズボラ料理(204) 焼きナスの吸い物 

翡翠色を見せるため、すまし汁は色をなるべくつけない

 ナスは美しいと思う。あの皮の紫色、皮をむいた時のあの翡翠(ひすい)色。茄子紺(なすこん)や翡翠茄子(ひすいなす)というきれいな言葉もある。ナスは日本の伝統色を、食の世界で体現しているような気がする。今回はズボラ料理らしくない書き出しである。
 僕は朝、散歩するのが日課のようになっている。同じ道ばかりだとあきるので、東西南北の四方に足を延ばす。そのうち、北と東は少し歩くと田畑が広がり、歩いていても楽しいし、夏は一面の稲の緑が目に優しい。
 農家のおばちゃんは親切だ。田畑のそばを歩いていると、声をかけられることある。「これ、持って帰って」。納屋のトマトやカボチャを、ビニール袋に詰めてくれた。
 名前も知らない通りかかりの人間に対してである。お礼を言うと、「たくさんできて余っていても、近所にはあげられないのよ。同じ農家だから、自分とこも作ってるから」と、何とも率直だった。
 散歩の途中のプレゼントはありがたいが、家まで運ぶのは大変だ。このため、2度いただいた後は、折り畳みの買い物袋を持ち歩いている。そうなると、作物のプレゼントはない。欲を出すと、こんな結果になる。
 自宅の近くの畑は、今の時期ならナスも作っている。小規模ではあるが、何筋かのうねで作っているから大量のブラ先がぶら下がっている。では、その紫色に感動するかといえばが、そうでもない。濃い緑の葉と入り混じって浮き立たないからだろう。
 収穫されたナスを皿に置いてみる。すると、紫がはえる。布でふけば、ツヤツヤとして光を増する。ただ、料理でこの色を残すには、かなりの技術がいる。ズボラ料理の及ぶところではない。仕方ないから、水ナスの漬け物でも買って食べることになる。
 翡翠色はあどうか。焼きナスもうまくできた時には、翡翠色が出るが、そうは問屋んで食べることになる。
 ナスを細長く切って、カタクリ粉をまぶしてさっとゆで、ナスそうめんとして食べることに挑戦したことがある(「編集長のズボラ料理」29回)。茄子紺と翡翠色があればこその食べ物だが、僕の成功率は5割にとどまる。ただ、翡翠色の方が若干簡単なような気がする。そこで、性懲りもなく別の翡翠に挑戦する。
 焼きナスを作る。中身に焦げができないように注意をし、やや早めに火を止めて、皮をむく。それを縦2つか3つにさいて、おわんに入れる。だしをとり、白しょうゆを加えて、すまし汁を作る。それをナスの上に注ぎ、最後にミョウガの千切りをふる。
 ナスの皮をむいた時、きれいな翡翠色になっていない時はどうするか。ナスすべがないわけではない。皿に乗せ、しょゆをかけて、その色をごまかし、さらにカツオ節を大量にかけて色を隠し、焼きナスとして食べる。(梶川伸)2016.08.09

茄子紺 翡翠茄子

更新日時 2016/08/09


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