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編集長のズボラ料理(183) あげ卵

揚げをいったん煮て味付けしておいてから卵を詰め、再度煮てもいい

  おかずと料理は同じようだが、何となく違うような気がする。食べ物同士だから、大差ないはずなのに。
 「ちょっと待ってな。何かすぐ作るから、ビールでも飲んどいて」と言って、冷蔵庫を開ける。これは、おかずである。取り組む姿勢としては、腕まくりするくらいですむ。
 「今度の日曜日の昼ご飯に来てください。何か用意しとくので」。これは料理である。当日は朝ご飯がすんで一休みしたら、下準備を始める。その際、エプロンは欠かせない。取り組む姿勢からして違う。「何か」のような乱暴な言葉は使わない。「今日のメニューは」と言って、エプロン外す。
 巾着(きんちゃく)なる食べ物がある。これはおかずなのか、料理なのか、境界線上にある。僕は料理の部類に入れる、油あげの中に何か詰めるので、手間がかかる。それが料理と判断するゆえんだ。
 おでんを食べに行っても、巾着は一段高い地位を占めている。「大根、コンニャク、厚揚げ、それと巾着」。注文する時にも、「それと」をつけなければいけない。餅巾着が多く、たかがあげに餅を入れているだけなのだが、その手間に敬意を払う。
 奈良市に客が並ぶうどん屋「麺闘庵」がある。巾着きつねうどんが人気となっている。きつねうどんに、「巾着」と形容しただけで、大ヒット商品となった。今や奈良と言えば、高速餅つきと麺闘庵。しかも隣同士の店で、経験則からは近鉄奈良駅に降りた観光客の2割はここに行く。
 普通はうどんの上に、甘辛く煮たあげ、つまりきつねが乗っている。ここは違う。きつねの中にうどんが詰めてあり、それがつゆの中にドーンと腰を据えている。きつねをはしで破り、うどん出して食べる。それなら、最初からうどんを出しておけばいいじゃないか。そう思うかもしれないが、巾着に入れる手間とその発想こそが、きつねうどんを料理に格上げする。
 巾着が料理になるためには、1つ小道具がほしい。中に何か詰めると、口を絞めなければならなお。そこで登場するのが、ゆでたミツバの茎かカンピョウである。この小細工が料理の品となる。
 四角い揚げを買ってきて、一辺を切る。ここから手かナイフを入れて、あげを袋状にする。その袋に生卵を入れ、ミツバで口を閉じる。だしを取り、砂糖、みりん、しょうゆで味をつけ、あげ卵の巾着を煮る。僕はやや濃いめの味付けの方が好みだ。さて、料理になっているのだろうか。微妙なところだ。(梶川伸)2016.04.20

更新日時 2016/04/20


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