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編集長のズボラ料理(136) トマトにぎり

トマトにぎり

 アパートの1階に住んでいる。もとは隣の棟に住んでしたが、3年ほど前に1棟だけ移った。
 両方の間取りは同じ。1階には小さな庭がついていることだけが違った。この庭は小さいけど、大きいのだ。親父も僕も転勤族だから、僕は人生のほとんどを賃貸のアパートで暮らしてきた。だから土への憧れが強かった。
 毎日新聞に入って6年ほどたったころ、南河内担当になったことがあり、富田林市に社宅があった。その時だけ庭つきの家に住んだ。
田舎だった。正月の2日の朝、近くの人が「ニュース、ニュース」と叫んで、家に飛び込んできた。「うちの野つぼにイノシシが落ちた」
ニュースかどうかの判断は結構むずかしい。しかし、このケースは、少なくとも正月のニュースとしてはふさわしくない。臭すぎる。
 そんな田舎だったので、庭は広かった。うれしくなって、レンガを積んでバーベキューのかまを造り、取材で知り合った人とよく遊んだ。自分の家の竹を切って串を作ってくる人がいた。親類がやっている養殖場のマスを持ってくる人がいた。シイタケ、野菜も集まった。田舎の良さである。
広い庭では、スイカやイチゴ、ミニトマトを作ってみた。オクラやナスも育てた。うまくいったどうかの記憶は失せている。ただし、スイカだけは覚えている。ソフトボールくらいの大きさにしかならなかったのだ。
そして今、小さな庭にはミニトマトとイチゴがある。肥料をやらないせいか、ミニトマトはミニのミニの実をつけている。イチゴはどういうわけか1年中実をつけているが、これもミニでしかない。
となりおじさんが今年、スイカを植えた。なぜかライバル心が出てくる。こちらはミニトマトだから、しっと心もある。富田林の経験から、「スイカ、難しいですね」などを話しかけながら、注目して見ていた。「どうせうまくいかないだろう」と。
 スイカはどんどんツルを伸ばす。おじさんはすだれを地面に敷く。小さな実を3つつけたからだ。「やるなあ」と思ったが、「初めてでうまくいくはずはない」と、自分に言いきかせた。実は次第に大きくなる。富田林で収穫したソフトボールを超えた。素人のくせに。
ついには、僕のスカイの3倍ほどの大きさになった。まずい! このまま成長すると、普通のスイカの大きなになって、昔の僕は完敗する。そう思っていたら、おじさんはスイカを収穫した。「どうでした?」と、愛想で聞いてみた。「まあまあでした」。よかった。おいしいまではいかなかったのだ。恥ずかしいライバル心である。
うちのトマトは固い。これを小さく切る。熱いご飯にクレージーソルトか、もしくは塩とコショウをふる。トマトと一緒に握る。市販のトマトなら、周りの固い部分を使う。真ん中の柔らかい部分も入れると、水分が多すぎて、握りにくい。
 隣のおじさんに「どうでした?」と聞かれたら、「まあまあでした」と言うことに決めている。まだ、聞いてくれないのだが。(梶川伸)2015.07.30

更新日時 2015/07/30


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