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編集長のズボラ料理(124) 鯛モズク

好きなものを加え、自分の味に

 鯛には高価なもののイメージがある。あの桜鯛の気品あふれる色を見れば、だれでもそう思うに違いない。だから、鯛とつけば、何でもありがたくいただく。
 昼間に突然、鯛の塩焼きが食べたくなったとして、そう簡単に食べられる店はない。そんな時には、鯛焼きだっていいのだ。「鯛」という言葉に魔力があるからだ。ちょっと甘いけど。
 例えば姫路へ行く。駅から真っすぐに姫路城へ向かう、と思うだろうが、そうはいかない。鯛に敬意を払う人は、商店街のメーンストリートの1本東の道を通らなければならない。そこには「鯛焼き本舗」がある。
 あんこが尻尾まで入っている。それだけではない。時間をかけて焼いているので、皮がパリパリになっている。しかも、ウロコを取る必要がない。そうなると、姫路城はそえものである。
 例えば、鳥取県倉吉市に行く。赤レンガ、白壁の土蔵群を回ったり、清水庵の餅しゃぶを食べたりするのは、二の次、三の次である。まず、米澤たいやき店に駆けつける。
 そこの鯛焼きは、皮は外側が白くてパリッとしているのに、内側はもちっとしている。あんこもたっぷり入っている。でも、そんなことより大事なことがある。僕が食べた時は、父子で焼いていた。焼き上がると、焼き器からはみ出した部分が本体に一緒についてくる。それを父の方がはさみで丁寧に切り落とし、そのうえで渡してくれる。
 これぞ、鯛焼きに対する真摯(しんし)な態度ではないだろうか。鯛には、人を真剣にさせる力がある。それは鯛焼きにも及ぶのだ。と、思う。
 鯛は高価だったはずだが、最近は安い。あら炊きにするため、スーパーで頭を買うと、時には200円ほど売っている。魔力が落ちて来たのだろうか。
 先日、遍路の先達で愛媛県に行った。バスでしまなみ海道を通り、昼食は大三島の「大漁」という食堂にした。僕たちは海戦丼のセットだったが、魚料理が乗った皿がズラリ並び、それを選んで食べることもできる。
 皿に乗った鯛のあら炊きの魔力に負けて、宿に持って行くことにした。夕食後に反省会を開き、あらだきをあてに一杯飲むことにしたのだ。
 どれを選ぶか。当然1番大きいものである。パーティーのすしを入れるような丸い大きなパックに入れてもらい、意気揚々と宿に持ち込んだ。これで980円。安い、安い。6人で食べれば、1人約150円。
 「こんな大きな鯛もあるんだ」と感動しながら、あらをつつく。あらっ、どうもおかしい。皮が固くて箸が身に入っていかない。その時、釣りの経験がある仲間が言った。「これはブダイじゃないか」
 よく見れば、鯛顔ではない。ガクッ。結局食べたのは、身全体の5%ほど。買い、高すぎる買い物。
 刺し身に切った鯛を用意する。味のついたモズクで和える。青ノリ、ショウガの細い千切りもアクセントになる。好みによって、しょうゆをたらしてもいい。(梶川伸)2015.03.21

鯛焼き本舗 米澤たいやき店

更新日時 2015/03/21


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