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編集長のズボラ料理(119) マグロのユッケ

白身ではなく、黄身を使うのが普通だとライバルは言う

 奈良で働いていたことがある。その時に知り合った仲間が、時々酒を飲むようになった。そのうちの3人が同い年で、勤め先は違ったが2007年に定年退職になった。
 定職がなくなると、暇である。陶芸や畑仕事をする仲間もいたが、それでも時間は余る。やがて1カ月に1度、酒を飲むことが定着した。
 「例会」と呼んでいる。当初は話し合う中身があった。退職金からお金を少し出し合ってプールしたので、その資金で何をするかがテーマだった。時間つぶしの集まりだから、結論が出るはずもなく、1年もたてば集まって酒を飲むこと自体が目的となっていった。例会らしい例会だと、みんな誇りを持っている。
 メンバーの1人の自宅が会場である。酒にはつまみがいる。飲んでいるとダラダラと長くなるから、お腹が膨れるものもほしい。3人以外に仕事現役の仲間もいるので、土曜日か日曜日の例会が多くなり、さらに「遅めの昼飯」と称して、午後2時スタートのルールが確立されていった。
 食べ物は持ち寄ったり、作ったりする。つまみよりも料理に近く、僕は「定職なき後の定食」と呼んでいる。
 集まれば早く飲みたいので、作る料理は簡単のものになる。それでも、作り合うと、どこかに対抗意識が生まれてくる。
 先日は友人宅に行く前に、3人でスーパーへ買い出しに行った。僕は牛肉の切り落としとゴボウを買った。ゴボウはささがきにして、牛肉とともにワインとしょうゆと砂糖で蒸す料理で勝負に出た。
 ライバルはスーパーでマグロと長イモを買った。何を作るか、気になったが、あえて聞かない。作ったのは「マグロのユッケ」だった。僕の料理も簡単だが、ゴボウをささがきにするのに手間がかかり、スピードで大きく遅れをとり、その回の料理対決は僕の敗北となった。
 「マグロのユッケ」は簡単なので、家でも作ってみた。そのことを、次の例会でライバルに話した。すると、卵の黄身と白身を間違って使っているという。「肉のユッケでも黄身じゃない」。ライバルは偉そうに言うから、ユッケだけで2連敗したことになる。
 ムラムラと対抗心がわき、ミスを認めないことにした。「白身の方か綺麗じゃない」と。マグロは切り落としでいい。長イモは適当に切って、棒のようなもので叩き、少しつぶしておく。ボールに卵の白身、ゴマ油、塩、白だし少々を入れ、マグロ、長イモと一緒によくかき混ぜる。どうだ、白身の透明さが美しいのだ。
 でも、次は黄身でやってみよう。(梶川伸)2015.02.18

更新日時 2015/02/18


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