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編集長のズボラ料理(109) 麩レンチトースト

一口サイズだから食べやすい

 みそ汁の具に何を入れるのか。具にもつかない話ではあるが、食べ物の話題の定番である。しまった、愚かな間違いをしてしまった。「愚にもつかない」だった。これも、スタンダード・ギャグかな。
 1番好きな具の話になると、僕はいつも「ジャガイモとタマネギの赤だし」と言う。ありそうな組み合わせだが、案外一致する人は少ない。なぜか? 関西では赤みそはメジャーではないので、それがミソである。
 具が2種類というのは中途半端でもある。「ネギだけ」などという粋な人からは、優柔不断と見られてしまう。「やっぱり具だくさんがいい」と、お金持ち発言をする人もいる。そんな人からは「貧しい食事」と、ピカソの作品名のように言われる。
 スキッと1種類にするなら、「麩(ふ)」と宣言する。フッと思いついたわけではない。おふくろは昔から、よく麩を使った。みそ汁もそうだが、印象が強いのはすき焼きだ。甘辛い汁を吸った麩は、肉よりも好きだったかもしれない。いまになって考えれば、肉を減らした分を麩で補う、おふくろの作戦だったのだろう。戦後の貧しい食事が尾を引いていたに違いない。
 そんな体験からか、僕はどんどん麩が好きになっている。大阪・大正区の沖縄料理店「うるま御殿」に行っても、チャンプルーなら必ず麩のチャンプルーを頼む。娘に「歯が弱くなってるからなあ」と、裏の理由を見抜かれたりはするが。
 仕事で仙台に行った際も、観光案内所で教えてもらった居酒屋さんで、車麩の卵とじを食べた。牛たんよりも麩。安いからでもある。大阪の友人たちへのお土産も車麩にした。1人300円ほど。それを6つ買って、帰った日の夜の反省会という名の飲み会に持っていった。安い、安い。
 しかし、生麩となると、値段が高くなる。それが京都に似合うから始末が悪い。京都という土地ブランドが値を上げるから、貧しい食事に慣れている僕らは音をあげる。知人が訪ねてきて、京都を案内すると、昼ご飯に「生麩か湯葉(ゆば)でも」と言いかねない。
 でも大丈夫。京都の友人が、清水寺に近い「エンドウ」という店を教えてくれた。「生麩と湯葉の丼」がいい。ご飯にかけてあるのではない。生麩、湯葉、キクラゲ、キノコなどを煮たものにとろみをつけ、丼にたっぷり入れてある。ご飯は別である。丼だから生麩の数もそこそこある。気にせずに食べられる。
 ここでは普通の乾燥した麩を使う。麩を牛乳でもどし、柔らかくなったら、いったん牛乳をしぼる。牛乳と生卵、砂糖、シナモンの粉をかきまぜて、柔らかくなった麩をつけ、しみ込ませる。フライパンでバターを溶かし、麩の両面を焼く。麩のフレンチトースト版で、麩レンチトーストは単なるダジャレで、それを言ってみたいだけである。(梶川伸)2014.12.01

フレンチトースト 車麩

更新日時 2014/12/01


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