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編集長のズボラ料理(108) ハルサメの伊予さつま

さつまの上には大葉などの彩りがあると良い

 食べ物の好き嫌いは、団体旅行を企画するものにとっては、最大の悩みとなる。
 僕は毎日新聞旅行の遍路旅の先達(案内人)をしていて、原則として1カ月に1度、1泊2日ずつで八十八カ所を巡拝する。行程表は僕が作る。
 今のシリーズは、「ちょっと歩き四国遍路・開創1200年満喫編」と銘打っている。毎回のプランを立てる際には、お参りをする霊場を何番から何番までにするか、遍路道のどこを歩くか、昼ご飯はどうするか、宿はどこにするか、お参りの途中で立ち寄る見どころやテイクアウトの店はないか、といったことを考える。
 お参りする札所や歩く場所はすぐに決まる。宿は「原則として温泉」と決めていて、温泉がそう多いわけではなから、これも決めやすい。見どころや買い食いの店は、おまけみたいなものだから、それほど気を使わなくてもいい。問題は昼食場所である。
 一般的なツアーは、幕の内弁当を選ぶ。参加者にはそれぞれ好き嫌いがあるので、おかずがチマチマと何種類も入っていれば無難なのだ。トリは嫌いでも、ハマチは食べられる、と言った具合である。
 でも、それでは面白くない。エビの天ぷらとマグロの刺し身が2日も続いたらたまらない。宿の夕食だって、その2つが出てくる確率は、限りなく100%に近い。
 そこで僕は、「その土地のものを」だとか、「B級グルメがおもしろい」と理由をつけて、地元色の強いものの一発勝負に出る。時には、セット料理ではなく、単品で大勝負に出る。例えば、徳島市では徳島ラーメンの店「巽屋」でラーメン・ライス。高知県安芸市では、まちおこしの拠点「廓中(かちゅう)ふるさと館」でチリメン丼。愛媛県四国中央市では、「山口里の家」のだんご汁。香川県丸亀市は「うどん県骨付き鳥市」とまで名乗っているので、当然「一鶴」の骨付き鳥。
 これは怖い。巽屋や一鶴など、その単品が嫌いなら、ほかに食べるものがない。だから、参加者募集の際の行程表に、店の名前と料理を明記しておく。苦手な料理があれば、参加しないだろうという目論見でもある。
 ところが、勝負に負けることもある。徳島県阿南市のロイヤルガーデンホテルで食べた「シイタケ丼ロイヤル風」もそうだった。たまたま手にしたパンフレットを見て、「これは何だ」という単なる僕の好奇心で決めた。シイタケは地元のブランド「しいたけ侍」だという。この名前にも、ひかれるものがある。楽しみだから、どんな丼か事前にホテルに聞かず、ぶっつけ本番で臨んだ。
 「丼」と名づけてあるので、てっきり和風料理を考えていた。ところが、シイタケの裏にミンチをつけて焼き、ドミグラスソースをかけてあった。洋風だったのだ。「ロイヤル風」のネーミングから、気づくべきだった。
 僕は気に入ったのだが、女性の何人かが、「あれはいかん」と言った。丼とのギャップが大き過ぎたのだ。侍をもじったわけではないだろうが、バッサリと切られてようなものだった。
 愛媛県砥部(とべ)町では、「ゆうゆう亭」で地元料理の「伊予さつま定食」を食べた。伊予さつまは、焼いた魚をほぐして、みそとだしと混ぜたようなドロッとした食べ物で、ご飯にかけて食べる。宮崎県の冷や汁に似ている。僕は好きでガバガバ食べたが、女性を中心に3分の1ほどの人が残した。灰色という見た目の悪さも影響したのか、「これはいかん」とブーブー言っていた。プランナーとしては辛いところだが、仲間うちの遍路なので、「この辺でしか食べられへんのやで」と言って押し切った。
 今回は、その「伊予さつま」か、魚が鯛の「鯛さつま」を使う。愛媛県の南西地域、西予では土産で売っている。ハルサメをゆでてボールに入れ、さつまを加えて混ぜる。皿に盛って、大葉の千切りなどをあしらう。さつまは、市販のものがなければ作ればいい。僕は作ったことはないが。
 居直っているわけではない。どうせ作っても。食べてくれないのではないか、すねているだけである。(梶川伸)2014.11.22

伊予さつま 鯛さつま うどん県骨付き鳥市

更新日時 2014/11/24


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