編集長のズボラ料理(110) 赤カブとサーモンのカルパッチョ
カルパッチョは、どうもなじめない。そもそも、その言葉と接したのは、人生半世紀を過ぎたころである。
生の魚なら刺し身に慣れ切っていて、しょうゆをつけて食べるものと信じ切っていた。添えものの野菜は大根の千切りと決まっていた。
遍路仲間で飲みに行くと、必ず刺し身は頼む。しかし、カルパッチョを頼むメンバーなどない。67歳の僕が1番若いくらいの老老慰めグループだから、まずカルパッチョが何なのかを知らない。寒くなってはいている「パッチ」は知っていても、「パッチョ」は知らないのである。僕もこの文章を書こうと思って、ちょっとだけパソコンで調べてみたが、結局は何のことだかはっきりしない。
肉の場合は、やや複雑に枝分かれしている。牛肉なら高級店で、いろいろな部位をちょっとだけ生で食べる。僕らにとっては、おごってもらうことがなければ、食べる機会などまずない。そんな高そげな生は、「どうぞ塩で」などと言われるから、カルパッチョのイメージとは違う。
庶民が行く焼き肉屋さんでは、生レバーもスター級だった。脇役に生センマイを従えていた。大きな食中毒事件を機に、禁止になったが。
生レバーは油をつけて食べるので、カルパッチョに似たところはあるが、店の雰囲気は全く違う。店内は煙モウモウで、中にはゴーグルを目につけて食べる店だってある。これはカルパッチョには似合わないに違いない。ゴーグルをはめて、カルパッチョをつまみにワインを飲んでいる人は、これまで見たことはないからだ。
焼きトリ屋さんでも、生の肝やズリを食べる。これも油をつけることもあるが、カルパッチョとの間には、かなりギャップがある。第1、焼きトリはカウンターが王道である。大将は常に目の前にいる。だから、注文も「生肝、頼むわ」となる。カルパッチョはそうはいかない。テーブルに来た礼儀正しい店員に「カルパッッチョ、お願いします」となる。
とは言っても、カルパッチョは生ぽい肉か魚と野菜をあしらって、オリーブオイルなどのドレッシングをかければいいだけなのだと、勝手に決めつけている。だから、年寄りでも、何ら恐れることはない。ただ、注文の前に「カルパッチョ」と2、3発声練習しないと、かんでしまう可能性があるから、要注意ではある。
生ではないかもしれないが、それに近いからスモークサーモンをメーンにする。たくさん食べたかったら、安い切り落としを買う。赤カブかラデッシュを使う。赤い色を残すように、薄く切る。緑色もほしいから、葉の部分を千切りにして、ほんの少し塩をふってしんなりさせる。
ドレッシングはオリーブオイル、酢、塩、コショウがベース。カルパッチョぽくするなら、酢はワインビネガーで、もうひと味はバジルペーストがいい。おっさん風にするなら、酢はユズ酢で、もうひと味は白じょうゆ。
実は安い食べ物です。盛り付けさえ、大きな皿にすれば、自然とカルパッチョになる。かんきつ類もあしらえば、完璧だ。(梶川伸)2014.12.02
更新日時 2014/12/02