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編集長のズボラ料理(92) トリ皮炒め

クレージーソルトなど、ハーブを使ったものをふって炒めても良い

 トリは安い。特にトリ皮は安い。
 皮つきのトリを、フライパンで焼くと、これがいい。塩、コショウをしてから、皮の方を下にして、まず7分。一切さわることなく、じっと待つ。7という中途半端な数字なので、時計を見ながら作る時は、10分とか30分とか、0のつく時刻でスタートしなければならない。そうでないと、焼き時間が8分になったり、6分になったりする。
 じっと我慢の子の後、身の方を焼く。さて、食べるとなると、身よりも皮の方が確実においしい。それならば、皮だけ焼けば、安くて、おいしく、一石二鳥である。
 神戸で仕事をしている時、会社から2分の居酒屋さんによく行った。その店で、1番安いのは、トリ皮だった。30年近く前だが、150円だった。
 そのころ、取材で長尾クニ子さんという女性を知った。娘さんを亡くし、医療ミスだと訴えて裁判中だった。愛媛県宇和島市から裁判のために神戸に出てきていた。生活費を得るために、居酒屋を始めるという。全く経験がないというので、トリ皮の店に案内し、教えを請うた。大将は3原則を挙げた。
 1.定休日は、オープン当初から決めておく。最初は休まずにやりたくなるが、いつかは休む。定休日なし、と思っている人がたまたまその日に出くわすと、2度と来ない。
 2.店は照明を明るくする。暗くすると、ヤクザが来る。女性が店をする場合は、特に。
 3.かけ売りはしない。
 僕も、図に乗って3番目を強調した。その教えを守って、長尾さんは店を開き、裁判に勝った。厳密に言うと、店と勝訴の因果関係ははっきりしない。
 長尾さんは裁判の過程を「娘から宿題」と題した本にして出版した。僕も実名で出ている。本は評判になり、連続テレビドラマになった。僕役は、「東日日報の梶山記者」として、2回分に登場した。
 そうなると、うれしいもので、僕役が出る日を聞いておいて、離れて暮らしていたおふくろに電話しておいた。
 おふくろから電話があった。「あの、酔っ払いがあんたなの?」
 実は1日間違えて、おふくろの教えていたのだ。その回は、長尾さんが居酒屋を開いた場面だった。最後の方で、カウンターでくだを巻いている男が出て居た。それを、僕役と思ったのだ。なんちゅう、こっちゃ、息子を酔っ払いと思っておる。全く信用していない。実際には、次回と次々回にまじめに登場したのに。
 神戸から大阪勤務に変わると、北新地のおでん屋さんに大変お世話になった。ツケばかりで飲んでいた。定年になった今も、時々。
 長尾さんに強調したのと、正反対である。連ドラを見た際のおふくろの直感は、どうも当たっているようだ。
 スーパーでトリの皮を買ってくる。たいてい、パックで200円前後である。適当な大きさに切って、塩、コショウをふる。フライパンに油をひかずに、トリ皮を焼くようにして炒める。パリパリになったらでき上がり。おかずでも良いが、酒のあてにはさらに良い。(梶川伸)2014.07.16

長尾クニ子 娘から宿題

更新日時 2014/07/16


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