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編集長のズボラ料理(87) 揚げた麩のしょうゆ・みりん漬け

しょうゆは量を調節し、あまりからくならないように

 一時期、しょうもないが、ちょっと笑えるクイズがはやったことがあった。例えば……次のうち、正解はどれでしょう。①野球②テニス③卓球。
「問題がないのに、答なんかあるものか」。相手が反発してくれば、思うつぼである。
「何でもいいから、1つ選んでよ」と、答を強要する。相手はしぶしぶ、1つ選んで口にする。嫌々答えるので、おざなりに①から言う場合が多いが、そうなればさらに好都合である。
「野球」。その答を聞いて、すかさず返す。「ブー」
「じゃあ、テニス」「ブー」
 相手は腹立ちまぎれに、「そんなら、卓球か」「ピンポーン」
 夏になると、これまたくだらない怖い小話がはやった。例えば……。
「恐怖のみそ汁の話、知っている?」「そんなん知らんわ」「じゃあ、教えてあげる」
 声を落として続ける。「うちの朝食だけど」、ちょっと間を取って、「今日、麩(ふ)のみそ汁だった」。
 おふくろはみそ汁の具に、よく麩を使った。きっと安上がりだからだ。この麩は、食べる時に気をつけなければいけない。熱いみそ汁をふんだんに含んでいるので、一口で食べると、口の中をやけどしそうになる。だから、フーフーして食べる。
 すき焼きにも、麩が入っていた。狙いは、牛肉の量を減らすことにあったと思う、僕はすき焼きの甘辛いつゆを吸いこんだ麩が好きで、たくさん食べた。おふくろの作戦に、まんまと引っ掛かっていたわけだ。
 子どもの時の味の記憶は恐ろしい。定年をとっくに過ぎても、相変わらず麩が好きである。滋賀県に遊びに行けば、丁子麩(ちょうじふ)を買って帰る。お茶つきの試食という、その店の作戦に乗せられているだけのことだが。
 大阪市大正区の沖縄料理の店「うるま御殿」に時々行く。ここでも、チャンプルーを食べる時には、決まって麩チャンプルーを頼む。いつもだから、少し恥ずかしい。獅子(しし)が見ているからだ。
 僕は大学で1週間に1日、授業をしている。「文章表現入門」という講座の受講生の中に、うるま御殿の学生がいた。店では、島唄の舞台があり、その合い間に獅子舞いが店の中を練り歩く。彼は、その獅子の中に入っていた。ある時告げられたが、麩チャンプルーをつまみにして飲んだくれている姿を、獅子の中から見られていたかと思うと、顔が赤くなる。いや、飲み過ぎだったのかな。
 大き目の麩を水で戻す。水を絞って、溶き卵をつけて、油で揚げる。しょうゆ、みりん、酒を混ぜて。麩をしばらく漬けておく。麩を好きにさせてくれた恩返しに、おふくろに食べさせたかったなあ。(梶川伸)2014.05.25

丁子麩 うるま御殿

更新日時 2014/05/25


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