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編集長のズボラ料理(79) エリンギのオイスターソース煮

オイスターソースは入れ過ぎると辛い

 JR大阪駅から毎日新聞大阪本社に歩いて行くと、梅三小路を抜けている。両側は飲食店で、居酒屋やビアホールもある。誘惑の多い通りだが、さすがに会社に行く時や、取材をすませて会社に戻る時には、誘惑を振り切る。
 しかし、強力な誘惑要因がある。居酒屋「うしお」の店の前に、「アワビの踊り380円」と書いてあるのだ。しかも、バター焼きも380と。
 アワビには、えも知れない高級感がある。いや、「感」ではない。実際に高い、はずだが。それなのに、380円?
 「ほんまにアワビか?」「トコブシじゃないの」「和歌山では、トコブシのことをナガレコと言うけど」。職場の仲間で、勝手なことを言い、関係ないことも言い、結局はその店に行き、確かめることにした。記者はまず現場だ。
 豪快に、アワビの踊りとバター焼きと、両方とも頼んだ。人生で初めての快挙である。注文を受けると店員は、カウンターの前にある水槽のガラスにへばりついているものを、力まかせにはぎ取って、調理場に運んだ。1人760円がかかっている。その模様を綿密に観察したが、どうもアワビらしい。
 踊りが運ばれてきた。コリコリしている。やっぱりアワビだ。内臓もついている。バター焼きも来た。バター焼きは以前に食べてから、長い年月がたっているので、本物かどうかわからないが、食感からしてトコブシやナガレコではない、と思うのだが。
 問題は大きさだった。テレビのグルメ番組に出てくるアワビの3分の1、トコブシの1.5倍と中途半端なのだ。だからといって、トコブシときめつけては、わざわざ店に来たのが水のアワビになってしまう。小柄なアワビだってあるのだ。それが仲間と下した、酒のうえでの結論だった。だから、その後も誘惑に負け続け、真っ先にアワビを注文する。
  エリンギを短冊に切る。鍋にオリーブオイルをひき、ニンニクのスライスを入れて、香りをつける。エリンギをニンニクオイルで焼き目をつける。エリンギが沈む程度に水を入れ、オイスターソースを入れて(多すぎないように)煮る。煮詰まってきて、エリンギに色がついたら、カニカマボコも入れて、もう少し煮る。
 エリンギは実は、アワビの仮の姿である。食感から、そう思うことがある。カサの部分は、アワビの縁の黒い部分と思えがいい。何度も自分にそう言い聞かせれば、5回に1回くらいは勘違いする。その瞬間を逃さず、アワビのオイスターソース煮だと思って食べる。(梶川伸)

アワビの踊り

更新日時 2014/03/15


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