編集長のズボラ料理(68) 焼きキツネ
料亭、小料理屋、居酒屋。それぞれの違いは何か。料亭には縁がないから、外して考える。すると、残りは2つ。僕は居酒屋ばかりで、小料理屋の方が高級なことはわかるが、その境界線がどのあたりなのか検討がつかない。
友人2人が何を思ったか、夕食をおごってくれるという。そういえば、居酒屋に誘った時に僕が支払ったから、そのお返しだろう。そう思って、気楽についていった。
大阪・心斎橋で待ち合わせて、路地に入り、ビルの2階の「桝田」という店だった。店に入ったとたん、「こりゃあ、いかん」と直感した。カウンターの中に、板前さんが何人もいる。それが実感となったのは、最初に大きなカズノコが出て時だった。そして、ピンポン玉より大きいカニ団子の吸い物で確定した。揚げた餅にかぶりついたら、中から大きなカラスミが姿を見せ、ダメ押しとなった。
このあたりで、思い出した。豊中市にあるミシュラン2つ星の店「桜会」を取材した際、そこの主人が「料理に対する姿勢を教えられた」という人が、桝田という店を出したと話していたことを。
こうなると、変な料理の話などできない。その緊張が解けたのは、ソバが出てきた時だった。毎日新聞の近くの「カラニ」を思い出して話題にすると、何とソバはカラニからとっているという。ちょっと自信ができて、その後はまた口数が多くなってしまった。
途中は省くが、最後に土釜のカニご飯が出て、さて問題は支払いである。高いことは間違いない。「僕も出すよ」と、とりあえずポケットに手を入れた。まあ、形づくりである。友人2人は「今日は私たちが」。素直に甘えてしまった。また、居酒屋でおごってみよう。で、居酒屋と小料理屋の境界線は1万円だと悟ったのである。
カラニに戻る。その店で、客同士が「立ち食いソバなんて、食べられないよな」と話していた。すると主人が「僕も食べに行きますよ」と言って挙げたのが、阪急宝塚線三国駅のそばの「三国そば」だった。何となく痛快で、さっそく行ってみた。よくはやっていた。カレーそばと、キツネうどんが人気のようだ。食べ終わって、キツネだけを持ち帰る客もいる。
ある時、キツネを友人への土産にしようと思った。店に行き、キツネを5枚頼んだ。これは結構、勇気がいる。何しろ、店では食べないのだから。
キツネまで、長い道のりだったが、料理は至極簡単。買ってきたキツネを網かオーブンで焼くだけ。キツネにつままれたような文章で申し訳ない。桝田からは焼きキツネにたどり着く人はいなが、焼きキツネを書くことにしてさかのぼると、桝田に行き着く人もいなだろう。(梶川伸)
更新日時 2014/01/02