編集長のズボラ料理(63) 米ナスのヨーグルトソース
おたんこなす。その昔、よく聞いた。間抜けな人、のろまな人を指す言葉だ。僕が使っていたかどうかは、覚えていないが、意味はよく知っている。
人をからかうようなニュアンスがるから、あまりいい言葉ではない。でも、どこかユーモラスな響きがあり、それほど悪い印象を与えない。「好かんたこ」という言い方を、松竹新喜劇で聞いたような気がするが、よく似た雰囲気がある。
おたんこなすは、もう何十年も耳にしなかった。ところが今年、久しぶりに目と口にした。友人がパックに入った「おたんこ茄子(なす)」をプレゼントしてくれたのだ。僕が間抜けで、ちょっと変な人間だからに違いない。
「なんじゃらほい」と思う。実は、からしと酒かすを合わせたものに漬けたナスだった。広島県福山市の「まんでぃ屋」のものだった。
おふくろは「漬け物さえあれば」という昔人間だったから、僕もナスのぬか漬けは小さいころからよく食べた。おやじは出張の土産に、からしナスをしばしば買ってきたから、これもなじみがある。僕はと言えば、奈良と京都の府県境に住んでいるから、ナスのなら漬けも好きだ。
しかし、からしと酒かすの両方を使ったナスの漬け物は初めての味だった。からしの辛さ酒かすで弱めているので、よく言えばまろやかな味で、いくらでも食べられる。悪く言えば、ぼんやりして中途半端である。おたんこなす的である。
インターネットで、まんでぃ屋のウェブをのぞいた。面白いことが書いてあった。「姑と嫁が火花を散らしながら作っています」。火花とはいっても、きっと「おたんこなす!」と言い合うくらいのものだろう。どこか、ほほえましい。
今回は米ナスを使う。米ナスは厚みのある輪切りにし、両面に浅く切れ目を入れ、塩とコショウをふる。ボールにヨーグルトと生卵を入れて、軽くかき混ぜる。混じり合っているのではなく、まだ分離状態の方がよい。フライパンにオリーブオイルをひき、米ナスの両面を焼く。ヨーグルト卵をスプーンですくい、米ナスの上に乗せてさらに焼き、短時間ふたをする。卵部分が半熟状態で取り出し、皿に盛る。卵とヨーグルトが生のままのような、固まりかけるような、そんな中途半端な状態が、おたんこなすに通じる、かな?(梶川伸)
更新日時 2013/12/05