編集長のズボラ料理(45) 揚げの梅肉はさみ焼き
新聞は情報産業である。そう書くと、最先端企業と思うだろうが、実態は実に古い。グーグルのことを、「グルグル」と言う記者がいるくらいなのだ。旧式企業である理由ははっきりしている。どんなにITが発達しても、取材するのも、されるのも、泥臭い人間だからだろう。
その古さは、選挙の時にいかんなく発揮される。開票場には記者が張りつく。選挙管理委員会は一定の間隔で、開票状況を発表するので、それを待てばいいのだが、長年の慣習がそうはさせない。
接戦であれば、発表前に勝ち負けを判断したい。そこで、候補者ごとに積み上げられていく票の山をひたすら見守る。「票の山を読む」という。ただ、実際は接戦であればあるほど、票の山は読めない。結局は発表を待ってしまうので、しきたりというか、儀式に近いものがある。
僕の先輩は神頼み派だった。毎日新聞大阪本社の敷地に、小さなお稲荷さんがまつられている。選挙の投開票日は、必ず「揚げさん」を買って出勤し、まずお稲荷さんにお供えをして、選挙という大仕事がつつがなく終わることを願い、かしわ手を打つ。神はコンピューターよりも偉いのである。
ただ、いつも疑問に思うことがあった。新聞社にとっての一大行事の無事を祈願するのに、100円か200円の揚げでいいのだろうか、と。
揚げは安い。いくらでも気兼ねなく買える。ある時、近くのスーパーで新潟県長岡市の「栃尾(とちお)のジャンボ油揚げ」を売っていた。その大きさに心を奪われ、ためらうことなく購入した。
そのことを、料理好きの友人に話した。すると「揚げは福井県丸岡町の谷口屋だ」と言って引かない。2人とも、敵が食べた揚げの味を知らずに、「自分の方がうまい」と言い張る。その争いは延々と続き、相手方の揚げも見つけて口にした後、結局は「そっちも分厚いなあ」と言って和解した。200円か300円で半年楽しんだから、安いものである。
やや厚めの揚げを用意する。厚みを二分するように包丁を入れ、袋状にする。内側に梅肉を塗り、刻みネギを大量に入れ、フライパンで両面に焦げ目がつくまで、ゆっくりと素焼きする。しょうゆ少々とカツオ節で食べる。(梶川伸)
更新日時 2013/06/19