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地域医療を聞く③ 高嶋香奈子・市立豊中病院副院長

 市立豊中病院には「匠(たくみ)制度」と呼ばれる独自の基礎看護技術指導がある。勤続8年以上のベテラン看護師「匠ナース」が、新卒看護師と現場で行動を共にすることで、技術の習得を助けるだけでなく、精神的支えにもなるという制度だ。1人の匠ナースに新卒は3人ほど。配属後、夜勤に入るまでの約3カ月間に渡って続けられる。
 「新人の教育に力を入れるのは、市立豊中病院の伝統なんです」と話すのは、副院長で看護部長の高嶋香奈子さん。匠制度は新卒の不安を信頼に変える効果があり、新卒看護師の離職率減少にもつながっているという。
 高嶋さんは高校を卒業後、大阪大学医療技術短期大学に入学した。看護師を目指したのは、高校3年生の時に友人から「看護師が足りないらしい」と話を聞いたからだった。「手に職もつけられる」と単純な思いもあった。看護師として豊中病院に勤務し、結婚もした。30歳で第1子を出産してしばらくたったころ、看護専門学校の教員として、豊中市医療保健センターへの異動が決まった。子どもを産んだばかりで大変なことを上司が気づかっての異動だったと、高嶋さんは思っている。夜勤もなく、やりがいのある仕事ではあったが、10年続けているうちに、どうしても現場に戻りたくなった。
 教員が嫌ではないが「患者さんからの反応がない職場が辛くなった」のだという。「医療は人と人とのふれあいの中にあるもの。私はやっぱり誰かのために働きたい」。現場から離れていたことでわかったこともある。「看護師は患者さんに育ててもらっている。患者さんに“してあげる”のではなく、こちらも与えていただいていると思わなくてはいけません」。
 豊中病院に戻った高嶋さんは、看護師のキャリアアップや職場環境の改善にも力を注いでいる。現在、看護師が望めば、病院の支援を受けて大学院へ進学し、特定の分野で熟練した技術と知識を有する認定・専門看護師を目指すことができる。豊中病院の認定・専門看護師はがん、救急、認知症など7分野に広がっている。
 また、24時間保育が可能な院内保育所も完備するなど育児支援も実施。こうした職場環境の改善に尽力するのは、看護師の離職率を下げる効果も期待しているからだ。看護師は女性が多いため、結婚や出産などで辞めてしまうケースが多い。高嶋さんは「それぞれ事情があるから強制はできない」としながらも、「せっかく得た知識や技術をうもらせないで」と訴える。「育児が一段落したら、いつかまた現場に戻ってほしい。うちじゃなくてもいい。日本のどこかで看護師でいてほしい」と願っている。(早川方子)
=地域密着新聞「マチゴト豊中・池田」第47号(2013年1月10日)

更新日時 2013/01/17


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