編集長のズボラ料理(22)コンニャクのカレー煮梅味
昔の新聞記者は、ほとんどが酔っ払いだった。
僕は1970年に入社し、初任地は和歌山だった。そこの記者も酔っ払いか、大酒飲みばかりだった。夜になると、先輩がその名も「酒一」という店に誘った。店の裏の川の臭いが流れてくるような、小さなおでん屋だった。コンニャクだとか竹輪だとか、安いものをあてに飲み、次の店に行く。最後は「プレイクラブ」という店で、店の女性がシャンソンなどを歌ってくれた。
アダモの「雪は降る」という曲が人気があり、酔っ払い記者がいつもリクエストをした。僕はその店で、アダモの「夢の中に君がいる」を覚え、いまだに大好きな曲だ。越路吹雪が歌った歌詞も気に入っている。
「人の気も知らないで」を、店の女性と一緒に歌う先輩記者がいた。歌い出すと、僕は覚悟をする。その後、「家に来い」と言うからだ。ついて行くと、なぜかストラビンスキーの「春の祭典」のレコードをかけて、また飲む。クラシック曲だから長い。その間に奥さんは、一緒に連れていかれた別の先輩の奥さんと、電話で話をしている。夜遅いが、自分の家に来ているから大丈夫、という連絡のためだが、「酔っ払いの夫を持って、お互いに大変ですね」と、慰め合ってもいた。
大阪の記者の行きつけの店は、北新地のおでん屋「ふ留井(ふるい)」である。ここでも、コンニャクは人気だった。僕は豆腐とジャガイモが好きで、ママに「アレ」と言うと、そのセットが出てきた。
ほとんどの記者が、つけで飲んでいた。ママは給料日になると、請求書を持って会社に訪ねてくる。そうすると、記者は別の出入り口から逃げる。そんなエピソードを、先輩からよく聞いた。
数年前から、その店のメニューに加わったのが、コンニャクのカレー煮である。それをズボラ流にアレンジしてみた。
コンニャクをさいころ状に切り、砂糖かみりん、少量のしょうゆを加えただし汁で煮る。しばらく煮た後、市販のカレールーを入れる。コンニャク1枚の場合はルーのひと山が目安。とろみがほしいので、煮汁は少ない方が良い。最後に、梅干しを刻んで加え、ひと煮立ちさせる。だし汁で煮る時間は長いほど味がしみるのだが、カレーの味が濃いので、短い時間でもごまかせる。 (梶川伸)
更新日時 2011/11/04