編集長のズボラ料理(21)竹輪の生クリームグラタン
30年ほど前、僕は徳島県の勤務だった。赴任した日、夜は公共の宿に泊まった。翌日の朝食がうれしかった。みそ汁の具がソバ米だった。皮をとった白い実を、米に見立てるので、この名がある。みそ汁にはスダチの皮が入れてあり、すがすがしい香りを放っていた。その日から、ソバ米とスダチのファンになった。
徳島でもう1つ、ファンになったものがある。小松島港の竹輪だ。竹に魚のすり身をつけて焼いてある。最近の竹輪はプラスチックの棒を利用するか、穴だけ開いているものばかりで、味気ない。
すり身の部分をビーバーのように前歯でかみながら食べ進め、竹についた部分もこそぎ落とすように歯を立ててこそ、竹輪だと思っている。竹にくっついている部分を食べるだけで、1分近くはかかる。そして、竹が丸裸になった時に、努力が報われた充実感がある。ただし、1分以上かみ続けるとみっともない。
実は小松島港の竹輪を超えて、とりこになった竹輪がある。ハモの皮を厚めにはいで竹に巻き、それを火であぶってあった。当時、阿南市に原子力発電所の建設計画があり、しばしば取材に出かけたが、その際にかまぼこ屋で見つけた。大ファンになり、取材のたびにハモ皮竹輪を買って帰り、会社でもう1度焼いて、みんなで食べた。かむと脂がジワーッと出て、ビールが進んだ。でも大丈夫、会社のすぐそばに酒屋があったので、いくらでも追加ができた。残念だったのは、かまぼこ屋がいつの間にか店を閉じたことだ。
去年の今ごろ、阿南市で1泊することがあった。夜は仲間と飲みに出て、酒楽亭という居酒屋に入った。何と、そこでハモ皮竹輪と再会したのだ。僕は涙を抑えて、それを注文し、バクバク食べた。仲間には、1口しかやらなかった。
今回は普通の竹輪を使う。縦半分に切って、さらに適当に斜め切りする。グラタンの容器の内側に軽くバターを塗り、竹輪を並べる。その上から生クリームを注ぎ、軽く塩をふり、青ノリの粉もかける。さらに溶けるチーズを多めに置いて、チーズが溶けるまでオーブンで焼く。肝心なのは、竹輪の皮の方を上にして並べ、皮を熱で少し焦がすこと。そのために、竹輪は2段重ねにして、上段の方は皮の部分が生クリームやチーズの中に埋没しないようにするのが良い。 (梶川伸)
更新日時 2011/10/12