編集長のズボラ料理(714) 根菜の和風グラタン
新聞記者をしていた若いころ、取材で知り合った共働き夫婦がいた。一緒に酒を飲み、取材テーマの1つだったごみ問題の調査と称して、先進的な取り組みをしていた長野県駒ヶ根市に一緒に行ったこともある。宿での酒も目的の1つだった。
歳月の流れの中で、会うことはめっきり減った。ところが、思わぬことから復活した。それも、夫の方ではなく、妻の方と。
僕は頼まれて、毎日新聞旅行の遍路旅の先達(案内人)をしていた時期がある。それを知った彼女が、あるシリーズに申し込んできたのだ。「定年を機に、何かしようと思った」というのが理由だった。
僕の遍路旅は1泊2日ずつ回り、10回あまりで完結する、良い遍路道の一部を歩き、あとはバスで行く気軽な遍路。宿では夕食のあと、飲むのが好きな人が僕の部屋に集まった。彼女も仲間に加わった。駒ヶ根市方式の復活である。
遍路を続けるうち、彼女の本当の理由を知った。定年になって、もう1つ始めたものがあったのだ。一念発起したのは水彩画。描く対象に遍路、寺を思いついたらしい。作品には、遍路仲間の後姿がおく描かれていた。
彼女が水彩を始めて間もないころ、作品を1つもらったことがある。僕に絵心はないが、「素人っぽい絵」と感じたものだ。
彼女はどんどん上達した。所属する会の展覧会や公募展で、受賞する常連となり、さらには画廊で個展を開くまでになった。だから、今では画伯と呼ぶことにしている。
画伯からはしょっちゅう、展覧会の案内が届く。なるべく行くことにしている。半世紀近い付き合いだし、遍路仲間だし、酒飲み友だちだし。作品を買うことはないが。
先日は大阪市・上本町の近鉄百貨店のアートギャラリーで個展があり、遍路仲間を誘って見に行った。また作品は買わず、雑談をして別れ、百貨店のレストランで昼ご飯を食べた。メーンの料理はグラタンだった。作り方を勝手に想像してズボラ料理として挑戦し、和風根菜グラタンと名づけた。作品鑑賞の真の目的は、ズボラ料理のメニュー探しだったとも言える。画伯の遍路が題材探しだったのと同じこと。
レンコン、ニンジン、ゴボウ、サトイモといった根菜と鶏肉を小さめの小口切りにする。鍋にだしを取り、白だしも少し加えて煮る。火が通ったら取り出し、水分を除く。煮汁は少し残しておく。鍋にバターを入れゆっくり熱し、すり下ろしたタマネギを入れて混ぜ、さらに小麦粉も入れてよく混ぜて団子状にする。牛乳を少しずつ加えて伸ばしていき、ホワイトソースを作る。その際、煮汁とみそも足して、和風感を出す。容器に具を入れ、ソースをかけ、その上にとろけるチーズを乗せて焼く。
せっかくだから、久し振りに画伯の絵を出して、見ながら食べた。作品をもらうなら、もっと上達してからにすればよかった。そう思ったが、画伯には内緒にしておく。(梶川伸)2024.02.18
更新日時 2024/02/18