編集長のズボラ料理⑫ 揚げイカのフライパン焼き
2003年に広島県尾道市に遊びに行ったことがある。昼食は「おがさ」という店でとった。夕方の一杯の店を探すのに、駅の売店のおばちゃんに聞いた。「海岸側は観光客向けの店だから高い。地元の人は駅裏の店に行くよ」と言って、「くしま」という居酒屋を紹介してもらった。
先日、尾道に行く機会があり、2つの店を再訪することにした。記憶をたどって、おがさを探したが見つからない。「店の名前が変わった」という人がいて、教えてもらった「ざこや」に入った。しかし、どうも印象と異なり、しっくりこなかった。
8年前に来たことを告げると、主人は唐突に「いつまでもお元気で」と言う。この一言で、記憶がよみがえった。前回もそうだった。今回も追加注文の際にも、帰り際にも「いつまでもお元気で」。どこかユーモラスな口癖である。
前回のくしまの思い出は、イワシの刺し身である。手でさいて皿に盛ってあった。トロッとした味もさることながら、500円という安さにうれしくなり、売店のおばちゃんに感謝した。今回も頼むと、同じ値段で出てきた。ただし、生きのいいイワシが手に入った時、そして手間がかかるので客が少ない時しか出さないそうだ。2回連続でありつけたのは、何と運のいいこと。
店の夫婦と話していると、NHKドララの「てっぱん」の影響で、尾道のお好み焼きが人気だとか。特徴は揚げイカが入っていることだそうだ。揚げイカは、スルメに衣をつけて揚げたもので、関西のスーパーでは、菓子か酒のつまみのコーナーに置いてある。
夫婦との雑談の中で、尾道では揚げイカを焼いて食べるということを教えられた。しかも、島谷食品のものがいい、と強調する。これは簡単だ。家でやってみるぞ、と固く心で決めた
翌朝、ホテルのフロントで1番近いスーパーを教えてもらった。船に乗るのだが、あまり時間がない。早足で10分ほどのスーパーに出向き、開店と同時に突入した。店員に揚げイカの場所を尋ねると、菓子コーナーに案内された。たくさん並んでいるが、目指すものがない。再度尋ねると、島谷食品は、魚のコーナーに近い場所に山積みにされていた。さすが、島谷食品。1袋598円のものを2袋買って、船着き場に急いだ。「何で、朝から汗をかかんといかんのや」と自問自答しながら。
関西のものに比べると、島谷食品は幅広で大きく、堂々としている。居酒屋夫婦とスーパーの店員に教えてももらったやり方をミックスして、揚げイカのフライパン焼きを作った。油を入れずにフライパンを熱し、揚げイカを乗せて両面を軽く焼く。そうすると、衣の油分が少し落ち、表面はパリパリになる。それを皿に盛り、軽くソースをかけ、青ノリをふる。それをつまみながら、尾道を思い出し、「いつまでも元気で」と、グラスを口に運んだ。ソースをかけ過ぎたかな。少し辛くて、ビールがどんどん進んだ。健康を害すかな。(梶川伸)
更新日時 2011/05/31