編集長のズボラ料理(647) 豆モヤシのお好み焼き風
小麦粉は接着剤なのだ。当たり前だが、定年になって知った。暇なので料理をするようになったからだ。
漆(うるし)も当たり前だが、接着剤なのだ。知ったのは、小麦粉よりももっと前だった。記者時代、同僚のお父さんを取材して、改めて教えられた。
お父さんは大手企業の樹脂の研究者だった。樹脂は接着剤でもあり、同じ性質を持つう漆に関心を持った。研究から始めたが、金繕い(金継ぎ)にも手を伸ばした。割れた食器などを漆でつなぎ合わせ、その上に金粉をつける。割れ物が復活するだけでなく、その技術によって、芸術的価値が上がることもある。
やがてお父さんは漆にのめり込み、漆作家に弟子入りして、本格的に作品作りをした。同僚の家を訪ねると、テーブルから器まで、漆に包まれていた。みんなお父さんの作品だった。そんなお父さんだが、好きなのは作るよりも研究の方で、補助金をもらい、小さな実験装置で、地道な研究を続けていた。
僕の場合、小麦粉が接着剤だと知ったのは、地道な研究の結果ではない。料理素人でも、やっていれば実感として分かってくるもんだ。
かき揚げは溶いた小麦粉を使う。具材をつなぎ合わせるためだ。ただ、かき揚げは難しく、僕の技術では具材が油の中でバラバラになって、自由に泳ぎ出すことある。だから実感は2回に1回程度だ。
お好み焼きも小麦粉を溶くから、円盤状にまとまる。実感度はかき揚げよりは高い。バラバラになる恐れがあるのはひっくり返す時だが、関西人はお好み焼き・タコ焼き遺伝子を持っているし、生涯引っ繰り返し回数は、関東人の10倍ほどあるので、失敗は少ない。つまり、実感度は高い。
小麦粉は溶かなくても、接着剤になる。ハクサイの葉をビニール袋に入れ、小麦粉も加えてよく振る。フライパンにほんの少し油を落とし、ハクサイを重ねて乗せていき、ふたをして弱火でゆっくり焼いていく。そうすると、ハクサイのお好み焼きとなる(編集長のズボラ料理389回=ハクサイ焼き)。
今回はハクサイ焼きの変形。豆モヤシをビニール袋に入れる。小麦粉を加え、よく振ってまぶす。フライパンに少し油をひき、豆モヤシを重ねる。円形に成形しながら、フライ返しで抑える。ふたをして蒸し焼きにし、途中で引っ繰り返す。フライ返しでまた押さえ、さらに蒸し焼きにする。食べる時はしょうゆかポン酢をかける。
引っ繰り返すのは、ハクサイよりは難しい。少し多めに小麦粉をまぶし、少し長めに蒸し焼きにし、フライ返しでまめに押さえることをお薦めする。(梶川伸)2023.02.06
更新日時 2023/02/06