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編集長のズボラ料理(473) 豆腐のロシュティ風

水切りは十分に

 2018年の夏、スイスの友人を訪ねた。国際的な人間と思うかもしれないが、友人は日本人だから、気軽なもんである。
 スイス滞在中、彼がずっと付き合ってくれた。居住地はドイツ語圏だった。大学の時にドイツ語を習ったような気がするが、覚えているのは「イッヒ リーベ ディッヒ」だけ。でも困らない。話す相手は基本的に友人だけだから、得意の日本語ばかりを使っていた。
 フランスにも連れて行ってもらった。僕は遍路が好きだから、多少は仏教にも関心はある。だからフランス親しみに盛っている。何せ、仏の国だから。
 でも、フランス語には縁がない。学生のころ、シャンソン好きの女の子に憧れて、シャンソンを聞いていたことがあったが、フランス語は「ラボエーム」や「ボンボヤージュ」や「パダンパダン」といったタイトルを覚えただけ。しかし、それが何を意味しているのかは全く知らない。そんな状態だから、フランスで口にしたのは得意の日本語ばかりだった。
 1度だけ困ったことがあった。ドイツの花の公園の島・マイナウ島を案内してもらった時、友人とはぐれてしまった。言葉は通じない。すべて彼にお任せだから、手持ちの現金は円だけ。心細いんことこの上ない。
 ひょっとすると、車に戻っているかもしれないと考えた。僕も車に向かうが、公園の入り口を出る必要がある。係の人に言った。「I miss My fried. I wont to go the friend's car.」
 下手なエイゴが通じたのか、面倒くさいと思ったのか、係の人は手を水平に動かし、「通れ」と促した。車に彼はいなかった。再度入口に戻り、先程の係の人に「Not」というと、再び手を水平に動かし、再入場させてくれた。面倒くさい奴と思ったことだろう。何とか友人と再会できてホッとした。それ以来、スイス滞在中は、彼と2メートル以上離れないよう心掛けた。
 アルプシュタイン山脈にも案内された。がけ下にある「エッシャーの山小屋レストラン」で、ロシュティを食べるためだった。簡単に言えば、ジャガイモのバター焼き。焦げ目がついて香ばしく、ボリュームたっぷりだった。先日、この店が閉店したと、友人から連絡があった。ここは、日本語の食材で残念会をしてみる。
 木綿豆腐をよく水切りし、拍子切りして塩・コショウをふる。ベーコンも薄めの拍子切り。フライパンを火にかけ、多めのバターを溶かす。そこに豆腐を並べる。上ににベーコン、とろけるチーズを乗せ、さらに豆腐を重ねる。上にもバターを乗せ、フライ返しで押さえながら焼く。お好み焼き状に固まってきたらしょうゆを垂らし、ひっくり返して、再び押さえながら焼く。
 食べる時は、敬意を表して、「ダンケシェーン」と言う。それ以上はドイツ語をしゃべらない。知らないから。(梶川伸)2021.01.14

更新日時 2021/01/14


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