編集長のズボラ料理(347) フキの葉蒸しずし
奈良方面に住んでいると、「奈良にうまいものなし」とよく聞く。「そんなことないやろ」と反発する。そして奈良のうまいものを思い浮かべる。
三輪そうめんがあるじゃないか。麺(めん)大国の香川県にも小豆島そうめんがあるが、伊勢参りの途中に三輪(桜井市)で作り方を覚えて帰ったのだから、偉そうにしてはいけない。ただ、どうもインパクトが弱い。強敵の兵庫県・揖保乃糸(いぼのいと)があるし、長崎県・島原そうめんもある。徳島県・半田そうめんのように、太めのそうめんというフェイントをかけるものもあって、圧倒的なブランド力を見せつけられない。
鹿せんべいもあるが、人間にはあまりお薦めできない。以前、鹿せんべいの早食い競争をして、口の中の唾液が干上がって、痛い目に遭ったことがある。
「鹿のフン」というお菓子はどうか。かの吉永小百合が名曲「奈良の春日野」で、春日野の青芝を「腰をおろせば鹿のフン」と歌ったから売れたものの、小百合抜きでは大いに力不足である。
そうだ、奈良漬けがあるじゃないか。普通のウリの奈良漬け以外にも、刻み奈良漬けだってある。これはウリを刻んで酒粕に漬けてある。これは酒粕を落とさず、酒粕と一緒に食べる。
そう思って、遊び仲間と長野県のリンゴ農家を訪ねた時、土産に持って行った。これに対して大阪に住む友人は551の「豚まん」である。さすがに作りたてを持って高速バスに乗る勇気はなく、チルドだった。
チルドなら奈良漬けの方が上だろうと、たかをくくっていた。ところが、お土産を食べた農家からの感想の電話は「豚まん、おいしかった」である。チルドのくせに。
そうだ、奈良には柿の葉ずしがあった。これにすればよかったか。そう思ったのだが、よく考えれば、和歌山も柿の葉ずしが名産で、「これぞ奈良」とはならない。正解は刻み奈良漬けと柿の葉ずしの合わせ技だろう。これならチルドに判定勝ちできたはずだ。
柿の葉ではなく、季節柄フキの葉を使う。なぜかと言えば、この時期はフキが安い。そのうえ、茎は煮ても葉は捨てるので、これを使えば一挙両得ではないか。
酢飯をつくる。干しシイタケと竹輪を煮て、細かく切り、チリメンの加えて酢飯に混ぜる。これを円盤状にしてフキの葉に包み、ゴムバンドで止めて、鍋などで蒸す。フキの葉の香りが命である。
食べようとして、大事な事に気がついた。煮たフキを入れるのを忘れていて、吹き出してしまった。(梶川伸)
更新日時 2019/05/07