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編集長のズボラ料理(343) サーモンと長イモのゆっけ風

ワサビ、ユズなどを加えてもいいかも

 「たたき」と聞くと、新聞記者は強盗を思い浮かべる。これは警察官が使う隠語で、記者も便乗して使っていた。いかにも事件記者らしいからだ。全くの錯覚だが。
 暴力をふるって金品を奪い取るのが強盗で、「暴力」が「たたく」に結びついたのだろう。「ころし」はもろの表現でだが、隠語らしいものもある。「サンズイ」はご存じだろうか。「汚職」のことで、「汚」の偏からきている。たたき、ころしとはちょっと雰囲気が違って、どこか知的な感じがする。
 殺人や強盗は「粗暴犯」と言う。これに対して、汚職や詐欺は「知能犯」と呼ぶ。そんな表現が、隠語にも影響しているのかもしれない。
 普通の人が、たたきから連想するのは「カツオのたたき」ではないか。たたきだから、たたいているはずだ。例えば、アジのたたきなら、まな板の上でたたいているのを見ることがある。ショウガやシソなどを加えて、小骨も一緒にたたき切る。
 中には両手に包丁を持ち、二刀流でたたく料理人もいる。リズムに乗ってたたき続けると、たたきから「なめろう」へと変わる。
 カツオの場合、たたいている姿の目撃情報はあましない。しかし、たたきというからには、どこかでたたいているはずだが、なかなか尻尾を出さない。
 遍路で高知の宿に泊る。100%以上の確率で、カツオのたたきは出る。皮を焼くところを、わざわざ見せることもある。時には、客に焼かせる。客はこのパフォーマンスに満足するのだが、問題はここからである。
 いったんカツオは厨房に下げ、盛り付けてからテーブルに運ばれてくる。トッピングはニンニク,ネギ,ショウガなどで、ポン酢などかけ、味をしみ込ますために、上から軽くたたいているという有力情報がある。
 そのトリックを見破られないよう、厨房でたたいている間、「焼いた後、氷水で冷やすのは邪道」「最近はポン酢よりも塩たたきがブーム」などと、講釈をたれて、客の気をそらし、完全犯罪を目指す。なかなかの知能犯ではないか。
 野菜もたたく。代表はたたきゴボウ。これも味をしみ込ますためだ。そして、今回は長イモ。
 刺し身用のサーモンを食べやすい大きさに切る。長イモは皮を取り、太めの短冊に切ってラップをかけ、上からたたく。白だしとゴマ油を合わせ、サーモンと長イモを和える。
 たたいて少し崩した方が料理らしく見えるので、これも知能犯的テクニック。「ユッケ風」としたのは、ゴマ油を使ったためで、その方が料理らしく見せる知能犯的テクニック。(梶川伸)2019.04.23

更新日時 2019/04/23


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