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編集長のズボラ料理(321) 紫キャベツのしば漬けもどき

モズクのネットリ感、お茶漬けの素のアラレの食感もポイント

 記者時代の同僚が愛媛県宇和島市にいる。定年後の楽しみで野菜を作っていて、収穫したものをしょっちゅう送ってくる。
 もらってばかりでは悪いので、時には彼の好きなビールを送る。そうすると、電話がかかってくる。これは恒例行事である。さらに言えば儀式のようなもので、電話で話す言葉も、形式化している。
 「送らんでええって」。彼のこの言葉から始まるが、意訳すればこうなる。「好きで野菜を作っていて、余ったから送っているのだから、お返しなんかいらない」
 何だか運送会社のテレビCMのようだが、恥じらいを見せる青春の会話ではない。暇をもて余した、えらい歳のおっさん2人のむだ話だ。当然、コマーシャルのように、初々しいブドウではなく、ビールのことだからロマンチックでも何でもない。
 CMの場合はこう続く。「取りに行くから」
 こちらの儀式も、よく似た道筋をたどる。「飲みに行くから」。これは意訳すると、「ビールは大阪・北新地に飲みに行くから、その時に金を払ってくれや」となる。
 CMはこのあたりで終わるのだが、僕らの儀式は粛々と続く。「そんな高い金、払えんからビール、送ったんやんか」「新地の方がええわ」「ジャンボ宝くじが当たったら、おごったるわ」「いつ当たるんや」
 いつもそうだから、お互いにせりふと流れは記憶しているので、よどむことなく儀式は流れて終わる。
 ただ、前回は途中から横道にそれた。また野菜を段ボール箱に詰めて送ったが、その中に紫キャベツが入っている、とわざわざ言う。そして、「固いかのしれんから、その場合は捨ててや」と3回繰り返した。よほど自信がなかったのだろう。
 捨ててもいいとなると、気が楽だ。ドイツ料理のザワークラウトを思いつく。しかし発酵させるは面倒くさい。そこで紫キャベツをざく切りして煮ることにし、酸味を出すために酢を入れた。味つけは鶏ガラスープの素と、クレイジーペッパー少々、ローリエ。
 煮たキャベツを千切りにしたが、もう少し酸味を加えるため、三杯酢のモズクを和えた。だんだん変な組み合わせになり、ここまでくればトコトンやってみる。ショウガの千切り、大葉の細切り、お茶漬けの素、そうめんつゆ。それらを混ぜて、しばらく置いた。
 無茶苦茶な食べ物だが、食べてみると、しば漬けに似ている気がしてきた。色が似てるからかもしれないが。そのことを宇和島に知らせようかと思ったが、また儀式をしなければいけないのでやめた。(梶川伸)2018.12.14

更新日時 2018/12/14


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