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編集長のズボラ料理(239) 溶き卵の寒天寄せ

卵以外に好きな物を加えていい

 20年ほど前、初めて四国遍路に行った。2泊3日ずつ9回に分けて、自転車で回った。
 いくつも思い出はある。最大の思い出は、高知県・足摺岬に向かう途中、転んだことだ。頭からコンクリートの路面に落ちた。下り坂だったので、時速30キロ近く出ていたと思う。「思う」としたのは、しばらくの間の記憶が飛んでいるからだ。命にかかわるよおうな大けがにならなかったのは、ヘルメットをかぶっていたためだと思う。
 それでも顔から血が流れ、自転車は傷んだ。先に進む気力を失い、自転車をたたんで、バスに乗って帰路についた。バスの中でおもしろい体験をした。男性が隣に座り、「顔の血をなめさせてほしい」と言うのだ。血は止まっていたが、かさぶた状にこびりついていたからだろう。
 奇妙な話だった。男性は漁師だった。その日は仕事が休みで、香川県の丸亀競艇に行く。「200万円持っていて、1レースに全部つぎ込む。大変なばくちになるが、ばくちには血をなめるのがいい」と言う。もちろん、なめさせはしなかったが、漁師の豪快さに驚いた。
 その前夜は、JR中村駅(現四万十市、旧中村市)そばのビジネスホテルに泊まった。その地域は「幡多」と呼ばれ、夕食は「幡多料理の店」と書いてあった小さな居酒屋で食べた。焼いたキビナゴ、清水サバの刺し身が印象に残った。
 客は僕だけだったので、女将と話しながら食べた。自転車遍路だと告げると、「お父さんに教えてもらった呪文を教えてあげる。これを唱えれば危険な目に遭うことはない」と言い、長い呪文を何度も繰り返した。僕は口には出さなかったが「そんな呪文など役に立つはずはない」と思い、呪文など覚える気はさらさらなかった。事故はその翌日だった。覚えておけばよかった。
 1年後、仕事の後輩が夏休みを利用して、中村の方に遊びに行った。そこで、夕食場所として、幡多料理の店を薦めた。ところが、店の名前が思い出せない。「らら」だったか、「るる」だったか、そんな名前だった、といい加減な教え方をした。
 それでも後輩はその店に行きついた。ただし、店名は「ろろ」だったと、帰ってきてから報告してくれた。まあ、誤差の範囲である。
 年末にテレビで、各地の正月の郷土料理を紹介していた。その中で、金沢の料理が簡単そうだと思った。今回作ってみたが、料理名を思い出せない。「べろべろ」だったと思うが、「ぺろぺろ」だったかもしれない。まあ、これも誤差の範囲。
 卵に白だしを加えて溶き卵にし、ユズの皮を刻んで混ぜておく。粉末の寒天の素を強いだしで溶き、熱する。火を止めて、溶き卵を回し入れる。容器に入れ、熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。
 実は、作り方はほとんど覚えていなかった。だから我流だが、簡単そうな工程なので、間違っていたとしても、誤差の範囲だろう。(梶川伸)2017.01.22

更新日時 2017/01/22


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