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編集長のズボラ料理(201) 豚のみそハチミツ焼き

焦げないように注意深く焼く

 食べ物を説明するは難しい。自分は食べていても、相手が見たり食べたりしていなければ、なおさらだ。その逆も。
 例えば、香川県観音寺市、かなくま餅福田のあん餅雑煮うどん。名前の通りなのだがの、名前からイメージがわくだろうか。僕は高松市に住んでいたことがあるので、初めて注文した時にも推測できたが、香川県人以外には難しいだろう。
 まず、讃岐の雑煮を知らなければ、理解しづらい。逆に知っていれば、理解しやすい。讃岐の雑煮の特徴は、あん餅を使う。行きつけになった居酒屋さんの大将に、あん餅雑煮のことを聞いた時は、カウンターの椅子から落ちそうになった。「新婚さんいらっしゃい」の桂分枝のように、完全の椅子から落ちることはなかったが。
 まず、あん餅を使うこと自体が常軌を逸しているではないか。普通の人ならそう思う。そこで思わず聞いた。「雑煮じゃなくて、ぜんざいの間違いでは」
 説明を受けても納得できず、結局は数日後、大将に作ってもることにした。見れば分かる。食べれば納得する。あん餅を使うために、みそは甘い白みそだった。甘味には甘味なのか、と納得する。甘さを抑えるのは、上にかけてあるカツオ節と青ノリだった。なるほどで、ある。
 うれしくなって、大阪の友人に話した。いくら説明しても、通じない。友人は結局、大将が正月にあん餅雑煮を作ることを知り、食べに行った。わざわざ大阪から。ようやる、と思ったが、それほど食べ物の説明は難しい。
 あん餅雑煮うどんは、どんぶりにあん餅雑煮を入れ、それにうどんを加えたものと思えばいい。この説明も、讃岐の雑煮を知っている人にしかできない。
 知らない食べ物を作るのは難しい。当り前だ、知らないのだから。
 それでも家族が言う。「テレビで見たから、作ってみたら」。すぐさま反撃する。「僕は見ていない」
 そうすると、テレビで見た手順を説明する。「味は?」と聞くと、「口の中に広がる」らしい。テレビでは、口の中で広がりっ放しなのだ。広がるかどうかは別にして、説明を聞く限りでは想像の範囲内なので、やっぱり作ってみることにした。
 豚カツや豚テキに使うような豚のロースを用意する。みそにハチミツ、酒、みりん、おろしショウガ、白だし少々を加え、よく練る。それを豚肉の全面に塗り付け、1~2時間おく。フライパンに少量油をひき、豚肉を中火で焼く。火が通るように、途中でふたをして弱火で蒸し焼きにする。皿に置き、フライパンに残った汁もかける。口の中に広がれ、広がれと思いながら食べる。(梶川伸)2016.09.03

あん餅雑煮

更新日時 2016/09/03


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