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編集長のズボラ料理(197) 梅干しご飯

炊き上ったあとは、よくかき混ぜる

 みんなが知っていて、自分だけ知らなかった時には、どうにもバツが悪い。それを→七の「前で明らかにされると、恥ずかしさをごまかすために、時には攻撃的にすらなってしまう。
 遍路旅の先達で、愛媛県に行った時のことだった。昼ご飯は内子町の蕎麦(そば)つみ草料理・下芳我邸の「野遊び弁当」を選んだ。「野遊び弁当」というネーミングが気に入ったからだ。
 建物は古く、風情がある。その風情を生かした食事の演出を心がけている店だった。ソバがメーンだが、おにぎりと、それを包む竹の皮、天ぷら、煮物、酢の物、デザートのセットが1つのお盆で運ばれてくる。お盆には、小さな花瓶が乗せられ、花が活けてあった。遍路の合間のちょっと良い時間。
 おにぎりは、梅干しと一緒に炊いたご飯を握っていた。梅干しをご飯で包むおにぎりはよく食べるが、このスタイルは経験がなかった。そのことを口に出した。「こういうやり方もあるんやねえ」。のんびりとした食事の席の良い話題だと思った。
 「こんなん、よくやるよ」。遍路仲間は人生のベテランの女性が多く、その1人が軽く言う。「何! 一般的なのか」と、僕はしょげる。「米1合に梅干し1個」と、別の人生のベテランが追い打ちをかける。この時点で、「知らないのは僕だけなのか」と打ちのめされ、うなだれる。
 目を上げると、ベテランは食べ切れないおにぎりを持って帰るために、店の人にラップを持ってくるよう頼んでいる。その時に思った。これが世に言う「梅干しばばあ」といいう人種に違いないと。気が付けば、しごく攻撃的になっていた。
 自宅に帰っても、攻撃性は尾を引いた。さっそく梅干しご飯を作ってみることにし、まずは1合に梅干し1個。上品な味わいである。しかし、これでは偉そうに言われたサジェスチョン通りだからおもしろくない。何かアレンジして、自分らしさを出さねば。
 次には1合に梅干し1個で、コンブも入れてだしの味を加えてみた。これは梅干しの酸味が中和されて、ぼやけた味になり、あのサジェスチョンの味の方が圧勝だ。
 そこで3度目の正直。コンブは入れない。では、何で差を出すか。米1合に梅干し1,5個にした。これが究極の梅干しご飯なのだ。梅干しじじは、そう勝手に思っている。0.5個ほど僕の方の勝ち。(梶川伸)

内子町

更新日時 2016/07/16


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