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編集長のズボラ料理(132) はんぺんだて巻き

渦巻き状になるような厚さに焼くとよい

毎日新聞時代の後輩で、残念ながら現役のまま亡くなった男がいる。社会部で一緒のグループになり、同じ釜の飯を食っていたこともあるが、真面目な記者だった。
1985年に阪神タイガースが久し振りに優勝した。その夜、ファンがはめを外し、5000人が「御堂筋パレード」と称して、大阪・梅田から難波まで歩き、途中で車をひっくり返した。道頓堀では次々に、汚い水に飛び込んだ。
その熱狂ぶりを社会面で記事にした。それぞれの取材現場からの原稿を僕がまとめ、記事にした。彼の担当は道頓堀だった。ファンのしょうもない行動なのに、飛び込むたびに数を数えた。
はかにも数えているところがあった。大阪市消防局だった。こちらは、人命にかかわることを警戒してのことである。彼はどうかというと、僕が数えてくれと、言ったからだった。
あまりのくだらなさに、消防局は午前1時で数えるのをやめてしまった。ところが彼は真面目だから、新聞の締め切りの午後1時40分まで数えた。確か、110人ほどだったと思う。その後も飛び込んだ人はいるが、誰も数えていない。だから彼のカウントは、公式記録として残っている。
彼もその後、何人もの後輩を抱える立場になる。後輩との関係が愉快だった。酔うと、よく家に連れていった。面倒見がいいとも言えるし、後輩にとってはいい迷惑とも言えた。後輩たちはよく、彼の家に泊まった。そのうち慣れてきて、彼が宿直の時でも勝手に訪ねて、酒を飲んだ。中には、1週間ほど彼の家から通ったあつかましいヤツもいる。
彼はいいかっこできたかもしれないが、大変だったのは奥さんだった。子どもがいないので、時には2人きりの夜もあった。
彼が亡くなって、世話になった後輩たちが毎年命日に、彼のいない奥さんの家に集まり、酒を飲む。なぜか先輩なのに、僕も行く。彼の宗旨が真言宗であることに関係がある。一周忌や三回忌は僧がくるが、そのほかの年は四国八十八カ所を回っている僕が、般若心経を唱える役を頼まれるからだ。
後輩は三々五々集まるので、大方のメンバーが集まった時点で読経となる。しかしながら、その時には酒が回っていて、ろれつの方が回らなくなっているのだが。
人数が多いので、食べ物は参加者が買って持ち寄る。それに奥さんも少し作る。僕も手伝うことがある。その時に教えてもらったのが、おせち料理などに使うだて巻きである。しかも簡単な作り方なのがありがたい。
 はんぺんをつぶす。ぼくの場合は、適当に切って、ミキサーにかける。ムース状になったものをボールに移し、卵3個、砂糖、白だしを加えて、よくかき混ぜる。それを卵焼き用のフライパンで厚めに焼く。火は弱めで、途中で裏返す。焼き上がるとアルミホイルの上に乗せ、渦巻き状に巻いて、熱がさめたら出来上がり。
夏の終わりに命日がやってくる。今年こそ正気のうちに、心経を唱えよう。毎年そう思う。

更新日時 2015/06/17


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