まちなみ探訪④ 庄内ウエスト商店街の散歩
平日の昼過ぎでも、庄内駅前にあるウエスト商店街は人の行き来が途絶えない。散歩する人、自転車を上手に乗りこなす人、買い物する人、商品を配達する人、隣同士の店主が談笑する。人の動きを見ていると生活の蒔絵(まきえ)を見ているようで楽しい。商店街には八百屋、魚屋、洋服店などに混じって、老舗の商店街らしい店が元気だ。占い、カツラ、TABACCO、革靴の製造所、玩具、帽子、時計、さくらもちわらびもちの店など、昔のまま残っている。横道に入ると、カラオケや居酒屋が昼間からにぎわっている。スナックの店頭には「カラオケでボトルが当たる」、居酒屋の店頭には「たまには朝から一杯どう?」の殺し文句が並ぶ。うどん屋の入口には「麺大盛り無料中」の古びた貼り紙があった。
ウエスト商店街は、縦に横にアメーバのように広がっている。ここにはイズミヤ、キリンドーなど大きな店舗もあるが、商店街の方が元気だ。この商店街では生活・暮らしに必要なものがすべてそろう。近所の人に尋ねると「大手スーパーより商店街の方が安い」と返ってきた。大型店と共生するすべを学んだのだろうか。
歩き疲れて、遅い昼食を取った。お食事処「ここや」という名前にひかれて引き戸を開けると、5組の常連客が食事中であった。左には畳敷きのテーブル、右はコの字のカウンターがある。古びたレンガ積みの上に置かれた厚い鉄板は、上部に反り返っていた。その真ん中でとんぺい焼を焼く。向かいに常連の夫婦が座った。奥さんが和定食を頼むとすかさずご主人が「わてもわてい(私も和定食)」とのたまう。
店を出ると、入る時には気が付かなかったが、正面に大きな古いアパートがあった。朽ちて傷みが酷いためかネットで外壁を覆っていたが、合掌造りのように屋根が大きく、3階部分の妻壁には3つの出窓が並び、木部の軸組を外部に見せたイギリスのチューダー様式建築の特徴を見せていた。しかも右端の出窓は跳ね出した梁を見せ、その上に座っている。昭和30年代初めごろの建築だが、おしゃれな外観は商店街のランドマークになっていたのではないだろうか。
夕方にさしかかった商店街はますます活気付いているが、路地裏に足を運ぶと昭和の朽ちた文化住宅が忘れられたように残っていた。日本の高度成長を支えた残映が寂しそうだ。商店街を歩いていると、ふと2階の外壁に目が留まった。戦後すぐ建てられたのであろう、外壁のタイルや装飾窓が残っている。往時の商店街を想像するのもまた楽しい。
【水原哲二さん】豊中市でリフォーム会社を経営するかたわら、趣味で全国の古い街並みを散策。「水原社長のまちなみ探訪」http://grandmahomes.com/town/
更新日時 2012/08/09