まちなみ探訪② 蛍池の洋館
阪急宝塚線蛍池駅の西側には落ち着いた住宅街が広がる。その中に民家というより迎賓館と呼ぶほうがふさわしい建物が残っていた。大きな敷地に白亜の洋館が泰然として建っている。玄関前の坂道の向かいには今風の住宅が並び、道が時代の断層になっていて、右は平成、左は大正時代といったところだろうか。これほど時代の差異を語る情景を見たことがない。
蛍池中町の高台に立つ白亜の洋館は大正末期、海運会社の社長が当時のモダニズム文化に刺激され、鬱蒼(うっそう)と茂った竹藪を切り開き建てたといわれる。急勾配の切妻屋根が2つ連なり、バルコニーがある妻側を西南に向けている。1階には丸く張り出したベイ・ウインドー(出窓)と、大きなアーチ型窓に幾何学的な組子をあしらった、おしゃれな窓が建物の表情を豊かなものにしている。外国文化に敏感な当時の若々しい息吹が感じられた。2階には、ゆったりと構えたバルコニーが人を誘うかのように遠くを眺めている。当時、家人はここから神戸港の明かりを見ながら、心は世界を駆け巡っていたのだろうか? スケールの大きいよき時代の文化を懐かしむことが出来た。
現在は3代目の持ち主になっているそうだが手入れが行き届き、白亜の洋館は町のランドマークになっている。通りがかりの主婦が、「立派な石垣に草が生えたのを見たことがない」と感心しておられた。引き継ぐことのご苦労と住まいに対する愛着を思い量らずにはいられない。生活感のない住まいではあるが、これからも残ってほしい建物である。
南側の道を北上すると隣家は校倉(あぜくら)作りの上に2階が乗っかっていた。増築したのであろうか。珍しい。突き当たりの細い坂道を登ると大きな池に出た。なんと池の中に第十八中学校の体育館が立っていた。池の水面に逆さ体育館が綺麗に写り、逆さ富士を思い出した。
蛍池はモノレールが通り、新しい道路が走り様相が変わったようだが、ゆっくり歩くと昔の楽しい風景が親しく語りかけてくれる。
【水原哲二さん】
豊中市でリフォーム会社・グランマを経営するかたわら、趣味で全国の古い街並みを散策している。「水原社長のまちなみ探訪」http://grandma-homes.com/town/
更新日時 2012/01/11