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編集長のズボラ料理(753) カツオのたたきの竜田揚げ

少し赤みが残る方がいい

 新聞記者をしていた若いころ、徳島市で仕事をした時期がある。会社に高知出身の同僚がいた。
 高知はカツオのたたきが名物だ。遍路に行って宿に泊まると、必ずたたきは出てくる。、でも彼はよく言っていた。「うちらの方や、たたきなんか食べんきに」。どういうこっちゃ、と思うが、彼に言わせると、こういうことだった。
 彼は須崎市の生まれだった。須崎はカツオの1本釣りの基地になっている。つまり、新鮮なカツオを食べて育った。須崎では釣りたてのカツオは刺し身で食べる。では、たたきは?
 「カツオは案外、アシが早い。少し痛んできたら、タタキにするきに」。つまり、たたきは次善の策だそうだ。
 新聞記者になって驚いたことの1つは、酒飲みが多いことだった。徳島でもそうだった。仕事が終わると、会社でビールか酒か焼酎を飲む。会社は仕事場なのか、居酒屋なのか判然としなくなる。
 もちろん、飲みに出ることもあある。しかし、貧乏会社に勤めていたので金に余裕があるわけではなく、安上がりな会社飲みが多かった。先輩が酒か焼酎の1升瓶を用意する。僕が近くのラーメン屋さんで、鶏のから揚げを買ってくる。そのセットで用意万端。
 先輩は原稿処理のまとめ役で、仕事が一段落すると飲み始める。僕や後輩を含めて飲む。酒飲みの先輩はそれでいいが、後輩はたまったものではない。えらい迷惑だったろう。僕も共犯だが。
 から揚げが続くと、高知出身の同僚が、会社の小さな炊事場で、カツオのたたきを焼いてくれた。ただし、解説がつく。「ワラで焼くのが1番やが、ここにはないきに」「2番目は段ボールやが、ここにはないきに」
 高知から離れた徳島の、しかもビジネス街も小さな会社の小さなガスコンロで焼くことを嘆くことで、でき上がりがまずかった場合の予防線を張っていたのだ。それでも、結構うまかったが。
 今回はカツオのたたきを買ってくる。切ってあるのではなく、塊を。半分は切ってたたきにする。残りは厚めに切って、ポン酢にみりんを加え、切り身を其れに漬けておく。水分をふき、カタクリ粉をまぶして揚げる。
 高知の同僚は怒ることだろう。次善の策のたたきをさらに加工するのだから。そんなこと言われても、知らんきに。高知から遠く離れた京都と奈良の境に住んでいて、龍馬とは関係がないきに。(梶川伸)2024.08.26。

更新日時 2024/08/28


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