編集長のズボラ料理(648) ワサビ入り白ネギのフライ
刺し身を食べる時、ワサビはしょうゆに溶かす派か、ネタの魚や貝などに載せる派か。僕はある時から後者に変わった。
そのきっかけは、会社の先輩とお酒を飲みに行ったことだった。随分昔のことである。
刺し身の盛り合わせを食べる。僕はためらいなく小皿にしょうゆを入れ、盛り合わせについているワサビを箸で取って、しょうゆに加えてかき混ぜた。大人になってワサビを使うようになってから、一貫した作法だった。
先輩もしょうゆを小皿に入れた。ここまでは僕と同じ。箸でワサビをつまんだ。ここまで同じ。次が違う。ワサビはしょうゆを避けて、皿の上辺に置いた。食べる時、刺し身にわさびをちょこんと乗せ、それからしょうゆをつけて口に運んだ。ウーム。
僕は刺し身をワサビしょうゆにつけ、口に持っていく。よく考えれれば、ワサビを乗せる過程を省いているから、理論的には合理的で、非の打ちどころがない。でも、フームである。
先輩の所作は上品に見えた。ワサビちょこんも奥ゆかしい。それに、しょうゆが濁っていないではないか。この方式だと、しょうゆもサッとつけるだけだから、最後まで気品が保たれる。
僕の方はといえば、しょうゆに透明感がない。ワサビ好き、しょうゆ好きのダブルだから、刺し身をワサビしょうゆの中にドブンとつけ、時にはシャブシャブと泳がしてしまう。どうも荒っぽい。さすが先輩。
僕も先輩を見習うことにした。昔の新聞記者は酒飲みばかりだったから、仕事よりは飲み方、食べ方を引き継ぐことになるのは、よくある先輩・後輩の関係だった。
この方式で、どうしても守らねばならないことがある。ワサビはちょこんにすることだ。辛さがもろにくるから、量が多いと、食べるより泣くのが忙しいことになる。
もう1つ。ワサビは決して落とさないこと。上品ぶってはいても、それだけでテーブルのみんなの注目を集め、これも泣くことになる。。
白ネギを食べやすい長さに切る。包丁で縦に切れ目を入れ、ナイフを使ってワサビを切れ目に塗り込む。小麦粉をまぶし、溶いた小麦粉に通してからパン粉をつけ、フライとして油で揚げる。
溶いた小麦粉にワアビを加え、その上でパン粉をつけて揚げたことがある。これはワサビの味があまりしなかった。どうもワサビは溶かさない方が良さそうだ。〈梶川伸)2023.02.13
更新日時 2023/02/13